towa_noburu

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「見知らぬ街」
夢の中でいつも彷徨う見知らぬ街。
赤いレンガで小人でも出てきそうなとんがり屋根の家々。私はその街では、小さな赤い髪のおさげの女の子だった。まだ5歳ぐらいだろうか。
私は街中を見渡せる丘の上で、いつもハーモニカを吹く練習をしていた。拙い演奏の観客は、お空を流れる入道雲と、丘のすぐそばの木々で囀る小鳥たち。
私は世界が彩る夕焼けまで、その場所でのんびりとハーモニカを吹くそんな夢。
「前世かもよ?もしくは異世界の貴方が夢で繋がったのかも。」
昼ごはん中に友人に喋ったらそう返ってきた。
「にしてはなんというか、メルヘンで現実味がなくて、ただただスローライフなんだよね…」
私はお弁当の大好物の卵焼きをつまみながら、返事をする。
「まぁ夢だし。」
「それはそうだけど。その夢、最近よく見るんだよね…」
「そんなに頻繁に見るの?」
「うん、でも毎回同じ。ハーモニカの音色が上達したわけでもない。まるで、とある映画を何度も再生して観ているみたい。」
「それは不思議な夢だね。ねぇ、その夢を見てどんな気分になった?」
友人は前のめりになり、私に尋ねた。
彼女はもう食事を終えていた。
私はお茶を水筒から出して、一口飲みながら答えた。
「なんとなくだけど、悲しい、かな。」
「まぁ、子供1人でずっといるのも不自然な夢よね」

そこで、休み時間の終わるチャイムがなったので、話は途切れた。

私はその日、寝る前に仰向けになりながら、例の夢について考えた。
こんな夢、夢占いも参考になりそうにない、
かと言って、この悲しい気分がずっと続くのも嫌だ。
どうすれば、夢が終わる、または進展するのか考えているうちに私はまた眠りの世界へと旅立った。
やっぱり私はあの小さな女の子で、丘の上でハーモニカを弾いている。
手が勝手に動く。意識はあるのに、感覚は別みたいだ。
私は女の子の視界を追体験しながら改めて世界を見渡した。
赤い煉瓦の家々には人の気配がなかった。
それでも女の子にとって大切な居場所なのだろう。
丘の上から、ハーモニカを今日も弾いていた、
まるで、何かを慰めるように。祈るように。
「君、この村の生き残りか…?不思議だったんだ、ハーモニカの音色が時折するってうわさ本当だったんだな…」
声をかけた男は旅人のような風貌だった。
女の子は男に声をかけられた瞬間に、涙が頬をつたい演奏をやめた。

そこで、現実の私も目が覚めた。
涙が頬を伝う。その時、心を支配した感情は、よかったね、という安堵だ。
もしかしたら、もうあの子の夢を見ることはないのかもしれない、なんとなくそんな気がした。

彼女が私の前世か異世界の誰かは定かじゃないが、
どうか笑っていてほしい。そう切に思った。
カーテンを開き、窓の外を見やると、そこには大きな雲が流れていた。

8/24/2025, 10:25:30 AM