彼岸花

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あなたに届けたい

夕日に染まる教室
俺の机の上には手紙があった。

“体育館裏に来て”

今の時代、こんなメッセージがあるのか?
むかしの少女マンガかと鼻で笑いながらも
内心、浮かれていた。

(なんだなんだ告白か…?笑)

ついボーっとしてしまった。
靴を履いて体育館裏に行く途中、
足をもつれさせて階段で転びかけた。

体育館ではバスケットボール部が練習をしており
シューズのキュッキュッという音が聞こえてきた。
もっとも、野球一筋の俺には聞き馴染みのない音だが。

そして体育館裏へとたどり着いた。

…ところでいったい誰がこれを書いたのだろうか?
手紙に書かれた字は達筆で
おそらく女子だろうと予想していた。

(どんな子かなぁ〜♪美人なやつがいいなー)

すると、髪をショートカットにした
小さな女子が俯いていた。

「ねぇ、これくれたの君ー?」

彼女は一瞬驚いた様子を見せたが、
すぐに顔を上げて俺を見てきた。
目が大きく、唇のぷっくりとした美貌だった。

(俺好みの女じゃん!)

有頂天になっていた俺はソレに気づかなかった。
前から投げられた“ソレ”に

バチッ

「うわ!何すんだよ!!」

投げられたのは紙屑だった。
中には 【ブス】
    【死ね】
    【消えろ】
と書かれていた。

「…は?」

驚いたのもつかのま、
今度は水を被せられた。

「ゔぎゃぁ!?い、いい加減にしろよお前!」

殴り掛かろうと近づいた途端、
彼女が誰か気づいた。

「もしかしてお前…沙織?」

「……はぁ、やっと気づいたの。バーカ」

俺は驚きのあまり体を硬直させた。
昔の姿とは大違いだったからだ。
かつての沙織は髪はボサボサの眼鏡ブスだった。

沙織は気にせず続けた。
「あの時はよくもいじめてくれたねぇ。
だから、そのお返しをしてあげる!」

たしかに俺はブスだった女を
手当たり次第にいじめていた。
紙を投げたり、プールに落としたり……

ハッとした。
先程沙織にやられたこととまるっきり同じなのだ。

そしてあの時最後に沙織にかけた言葉
それは…

突然視界が歪んだ。
そういえばさっきからおかしい。
ろくに言葉が出ないのだ。

そして睡魔が襲ってくる。

もしかして、睡眠薬でも盛られたんじゃ…
そう思った時にはもう遅かった。

俺の体は地面に叩きつけられ、
胸にはうっすらと赤いものがついている。

ぼんやりとした視界の中で沙織が何か言った。
聞き取れなかったが、口の動きでなんとなく分かった。

「さよなら」

これが、噂の走馬灯というやつなのだろうか
俺が昔沙織に言い放った言葉が脳裏に蘇る

『お前なんか生きてるだけで邪魔なんだよ!!』

1/30/2024, 11:42:31 AM