初心者太郎

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—幸せはもうここに—

子供の頃は病気がちで、よく入院していた。父はお見舞いに来てくれる時に、よく梨を持ってきてくれた。

大人になってから知ったことだが、病気見舞いで梨を持っていくことはあまり良くないらしい。でも私は梨が好きだから、むしろ嬉しかった。

「お父さん、早く良くなると良いね」

私が大人になって、今度は父がよく入院するようになった。

「いつもありがとうなぁ。俺も梨が好きなんだべ」

そう言いながらむしゃむしゃと食べる。
食が細くなったせいで、父の体はだんだんと弱々しくなっていく。

「何か欲しい物があったら言ってよ」
「それなら、アイの幸せな話が聞きてぇな」

まだ冗談を言う余裕はあるらしい。私は父が食べ終わった皿を回収した。

「じゃあまた来週来るから、ちゃんとご飯食べて元気にしててね」
「何で無視するんだべ。まぁいいや、いつもありがとうなぁ」
「うん、またね」

そう言って、病室を後にした。
今度は、私が父に恩返しをする番だ。父が好きな梨をまた買っておこうと思う。

お題:梨

10/15/2025, 4:37:55 AM