▶83.「あなたへの贈り物」
82.「羅針盤」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜人形たちの知らない物語〜
あらすじ
時代は戦乱後期。フランタ国、イレフスト国、サボウム国の三つ巴だ。
ここでの主人公はサボウム国で技術者のひとりとして働いていた彼。
彼はサボウム国出身ではなかったものの、王を倒し平穏な日々を取り戻そうとする反抗組織の一員として動いていた。
ある日、王にイレフスト国への工作を命じられた。戦乱に大きく影響を与えるであろう強力な術具『ワルツ』。これを城に仕掛けてこいということだった。
一旦は命令通りに城を出た彼だが、これは王の目を掻い潜るためであった。仲間と協力し、忍んで王城と同じ敷地内にある技術棟まで戻ってきた彼。時間と労力を費やして『ワルツ』の複製に成功する。
フランタ国にも『ワルツ』は仕込まれる。ならばサボウム国にも仕掛けて賛成派を一掃し戦乱を止めよう、そういう作戦だ。
元々彼は城には居ないはずの人間。
複製が終わった後は速やかにイレフスト国へ向かった。
それはイレフスト国内に『ワルツ』を持ち込み、また技術棟に戻る際にすり替わった仲間の所へ行くためでもあるが、
『ワルツ』が発動すると、有効範囲内にいる人間は心を操られ戦いに身を投じることになる。戦乱賛成派を一掃し、その後に起きるであろう混乱を防ぐ。そのために彼はイレフスト国にもいるであろう反抗組織と接触するつもりであった。
◇◇◇
仲間の協力で、____は無事にイレフスト国へ入り込むことができた。
前線は避けて、南東寄りに進路を取り国境越えをしたのだった。
その時に荷物の隙間から一瞬見えただけの、
たわわな橙色が____の目に焼きついた。
町には入らず通り過ぎ、一気に首都へ向かう。
(王城からは遠く離れたが、首都に行けば、王の意向によって潜入している者が確実にいるだろう。気を引き締めなくては)
藁まみれなのも忘れて、____は拳を握った。
首都に着いたあとはイレフスト国入りする時の荷馬車を操車していたニーシャが繋ぎとなって、先に潜入している仲間たちと引き合わせてくれることになった。
「お前とすり替わって先に来たセナは、こっちの反抗組織との交渉役やってる。細工もうまいからな。先にお前の家を紹介するぜ」
____はフードを深く被ってついていく。
ここだ。
そう言って示されたのは裏ぶれた感のある家屋。看板が付いているから、店なのだろう。
「技術屋…?」
「うちらの術具師みたいなものさ」
ギィィ…
古びた音がするドアを開けると、
机の上に埃をかぶった状態でいくつも置かれているのが見えた。
「おーい、俺だニーシャだ。上位互換連れてきたぞ」
「おっ、ありがてぇ話だ」
ヒョイっと顔を出したのは、____と同じ顔。
「王城に入らなきゃいけないだろ?コソコソやって見つかったら困るからな。お膳立てしといてやったぜ」
「あ、ああ…大体飲み込めた。つまり私は食い詰めた技術屋で、これから王宮に職を求めに行くんだな」
「「そういうこと」」
「ま、俺たちからあなたへの贈り物ってことよ」
一方、以前サボウム国内で____とすり替わって、
そのまま先にイレフスト国に来ていたセナ。
慎重にイレフスト国政府に不満を持つグループらを見極め、
その内の一つと接触していた。
両者の間には、イレフスト国から持ち込んだ『ワルツ』が置かれている。
ただし、ここにあるのは見た目だけのレプリカだ。とはいえ封自体は有効で、勝手に開封されれば、施したセナが感知できる。
「これが城のヤツらを一網打尽にできるっていう機械なのか?」
「そうだ。我らからあなたへの贈り物といったところだ」
「俺たちが、これを悪用したらどうするつもりなんだよ…なぜ、俺たちを選んだ。戦乱のせいで、どんどん税金が上がって暮らしが厳しくなっていく。政府に不満を持ってるやつなんか山ほどいるだろ」
「そうだな」
「……はぁ…それで?」
「王城のどこかに置いてくれたらいい。それだけで、しかるべき時に発動する」
「決めた。ありがたくもらってやるよ」
こいつらは、平和になるに越したことはないが最悪見つかっても構わない囮だ。
本命は____が持ってくる。
1/23/2025, 9:49:57 AM