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お題:部屋の片隅で

 私の村には古い言い伝えがある。
「夏の夜、空一面が光る時家から出てはいけないよ。
出たら最後海につれされるからね」
よくおばあちゃんがこう言っていた。

 私はおばあちゃんと二人暮らしだ。
おじいちゃんは私が産まれた年に亡くなった。
私が使っている部屋はおじいちゃんの星を見る部屋を改装したものらしい、おじいちゃんは天体観測するのが好きな人だった。
だから私の部屋には、私でも手が届く大きな天窓がある。

私は両親とは暮らしていない。
理由は簡単に言えば、両親から捨てられたからだ。
両親はできの悪い私を育てたくなかったらしい。

私には血の繋がった兄弟たちも居るらしいが両親達と仲が良いみたいだ。だから私は彼等とはここ最近は会ってもいない。

 おばあちゃんと住むこの村は歩けば数歩のところに、海が見える。
海は色んな顔を私に見せてくれる。
おばあちゃんと暮らすようになった時は、最初は戸惑った。
 私は絵を描くことが好きだった。 
両親達と暮らしていた時は、両親は勉強や運動をさせたがっていた。
「少しでも上位を目指せ、お兄ちゃんたちは良くできるのにあんたは何にもできないのね。そんな落書きばかりして」と良く言われていた。
両親達はわたしの顔見るたびにいつも嫌そうな表情だった。

 だから私は絵にのめり込んだ。
絵を描いてるとき、私はきっとこの世界じゃないところに居た海のような深い深い所まで潜っていた。
 そして、絵の完成すると共に地上に浮かんでくるのだ。
この村にやって来たときもらそうやって一日を過ごしていた。
学校も行く気になれなくて、いつもひたすらに海の絵を描いていた。
おばあちゃんはそんな私をただ見守って居てくれた。

「いつもキレイな海を描くね、そのうち海が貴女を連れ去りに来るかもね」
と村に来た当初から言っていた。
私はよく分からないけど、連れ去ってくれのを心の何処かで期待していた。

 その日は突然訪れた、夜眠れなくてお水を飲もうと、台所に向かおうとベッドから降りると、空が明るいのだ何かが可笑しいと思い、天窓のカーテンを開けるとそこにあるはずの星空がなく、そこにはあるはずのない海があった。

深い深い蒼の中だった。
そこには色とりどり魚や、パッ弾ける気泡、楽しそうに泳ぐウミガメ、この付近では絶対に居るはずのない大きいクジラが居た。

「うわぁきれいだ」

私は思わず天窓を開けようとした。
しかし、おばあちゃんの言葉を思い出した。
海に攫われても良いと願っていたのに、おばあちゃんのことだけは気がかりで私は天窓に掛けていたて手をそっと戻した。
そして天窓から離れて部屋の片隅に座って絵を描いた。

どれぐらいの時が経ったのか、気づけば朝になっていた。
私は思わず外に飛び出した。
昨夜の海は夢だったのか知りたかったのだ。
でも外には何もなかった。
朝の挨拶をし、おばあちゃんと共にご飯を食べた。
そしておばあちゃんに昨夜の事を伝えると、やはり私は海に呼ばれたそうだ。

 海に呼ばれて出たら海に閉じ込められると言われている。
ある日、突然に人が居なくなることがこの村では多かったらしい。
居なくなる人達に共通しているのは、皆海が好きだったことだ。
そして家の中から海を見た人が何人も居たことから、この村では海に気に入られると連れされると伝わった。
 
 私が部屋の片隅で描いた筈の絵は、いつも以上にきれいにかけていてまるで海の中にいるような絵になった。
私にこの先も海に呼ばれることはあるのか。
恐らくもう呼ばれることは無い気がした。

だから、私は沢山学んで今度は私が海に会いに行こうと思った。
部屋の片隅で描いた海の中の絵ではなく、私が本当に海に中に行って今度は描くんだ。

12/8/2023, 7:24:19 AM