あーるぐれい

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『時を止めて』

思えば夜が明けるまで一心に手紙を書くようになったのはいつからだろうか。
それはたった些細なことなのに、その些細なことでもう私は20年も手紙を書き続けていた。

習慣になっているわけでもないが、ただ一心にあなたへの気持ちを書く日がないことが、なんだかむずむずする日から始まり、今は思ったら便箋をペラペラとめくり書く日々だった。

幼馴染というのか、腐れ縁というのか。
この関係に名前などなく、この関係に名をつけるのであれば、バカの慰め合いがぴったりなんじゃないかと思ってしまう。

そんなくだらない名前をつけたいくらい、バカなことしか話さないのに、なぜか毎晩便箋を持ってはキッチンやリビング、自室に寝室を巡って、筆を走らせる。

でも最近、不思議でたまらないんだ。
隣にあなたがいる気がして、手紙を書かずともいい気がして、でも、もう20年も続けてしまっているから、意地になってなのか書き続けている。

ある日は何気ない日常。
ある日はスーパーの特売日とその品物。
ある日はあなたが好きと言ってくれた私の料理のレシピに、2ヶ月後会いたいな。なんてちょっとしたいつもは書けない本音を書いたりしている。そんな日々がただ幸せな気がして、でもあなたが隣にいる気がするから、なんとなくあなたが隣にいる気がしてままならないから、不思議な気味でたまらないんだ。

20年というのはあっという間のようで長い年数だと最近思い始めた。
2歳3歳の記憶なんてない。でも、アルバムを見返すといつも隣にいて、ケータイを見返すと、毎日メールをしている。ラインをするようになってからは、電話が無料なのをいいことに必ず3分以上は電話するし、長いと朝を迎えて、「大学の一限めんどくさい」とあなたは言って、私は「専門学校の朝練めんどくさいなあ、サボっちゃおー」なんて言い合って、朝を迎えていた。

文章を送るようになったのは忘れもしない。
あなたが中学受験を受けると伝えてくれた次の日からだった。あなたは学校よりも塾を優先したよね。
学校の帰りにあなたの家へ向かうのが小学5年生、11歳から今日まで、ちょうど昨日で20年が経ったね。

私はずっとずっと、文章を書く日々だったよ。
サイトにちょっとした日記を自作のキャラクターに生活させて、コンテストで賞を取ったりもして、それで調子に乗って、今もあなたに文章を書き続けているのかもしれない。

でも、もうこれでおしまいでいいのかもしれない。あなたの温もりをずっと感じる。

ちゃんとした返事とか、くれたのにね。この間まで。この間とは一体どのくらい前なのかもわからないけど、なんでもないこと、なんてないことを2人で便箋に書き合ったよね。

手渡しの手紙から、あなたの家へ向かって、手紙を渡した。
私は地元を離れて、わざわざお金を払って郵便で手紙を送って、そして今。
私はもうこの手紙を書く必要性がないと、察して、涙が溢れた。

一緒に踊って、一緒にアニメ見て、一緒に学んで、一緒に恋のお話をして。

あなたが全てだったの。ちょっとしたことで、悲しくなるのはあなたが落ち込んでいたから。ちょっとしたことで、怒りたくなる気持ちが止まらないのはあなたが嫌なことをされていたから。私の全てはあなただったんだなと、悲しくなった。

カーテンがなびく。
夜空から朝日に変わる。
電話が鳴った。
私は息を飲んで、その電話をとった。

「ごめんね、あの子の母です。覚えてるかな?あの子の遺品を整理していたら、出てきたの。あなたたちの大切な思い出、あの子への便箋。大切なものボックスってところを、開けたら悪いかな?なんて思って放置していたけど、開けたの。そしたら出てきたの。もう、あの子のことは忘れてください。あの子はもう、いないから。」


「は、はい。」

私の便箋をひたすら持ち歩く日々は案外早く終わってしまった。

そうだよね、あなたのお墓へ行って、崩れ泣いて、私はいつも、あなたに戻ってきてと言って。戻ってきてくれてたんだよね。

明日、あなたのお墓へ行こう。
花屋へ寄って。初めての交換し合った手紙でも持って、あなたのお墓で読んで、終わりよう。

ありがとう。最後の最後まで私のところへ来てくれて。

信じ合えてたんだよね、私たち。
ブルースターを花束に交えて、会いに行くよ。

私、受け入れるね、ごめんね。

私は、最後の便箋に隣にいてくれてありがとう。と書いて、ゴミ箱に放り投げた。

それは、寂しいような、どうしようもないよな。と諦めの気持ちを持とうと、努力して、涙が溢れた。

来世ではあなたが幸せになれますように。
そう願ったら、なんだか手を握られるような温もりを感じた。これは気の違いだよね。

私は涙を拭いて。眠りについた。

目が覚めると朝で、私はつい思ってしまった。

『時を止めて』

11/5/2025, 5:35:31 PM