時を止めて。
日が沈みきる前の薄明りが、カーテンの隙間から差し込み、病室の壁を淡く金に染めている。
天井の蛍光灯がわずかに唸りを上げ、機械の規則的な音が虚空に響く。痩せこけた男がベッドの上に横たわり、その傍らで女が指先を怯えるように重ねていた。冷たい手のひらに、ほんのわずかな温もりを探して。
ほんの少しでいいの、たった1秒だって構わない。時が止まれとこれほど思ったことはない。
ほんの一瞬でいい、たった一秒でいい。世界が息をひそめるように、今を閉じこめてほしい。
「いかないで」
声に出すことはできなかった。唇が震えて、言葉になる前に涙と共に溶けてしまう。あなたの痩せこけた頬に手を伸ばすと、冷たさと温もりのあいだのような感触が指先を包んだ。泣いてはいけない。涙が落ちてしまえば、あなたの顔が滲んでしまうから。細い指先に力をこめて、あなたの手を握る。目の見えないあなたに、私はここにいると伝えるために。
「大丈夫」
声にならない声で、唇だけがそう動いた。啜り声なんてあげない。あなたに、最後まで心配なんてさせてあげない。
願う。
切実に、狂おしいほどに、時よ止まれと。
この一秒が永遠であればいい。
いつしか、最後の音が部屋に一際大きく響く。
世間は動き続ける、時間は進み続ける。それでも、あなたがいなくなった私の時間は止まったまま。
11/5/2025, 10:43:13 AM