夕木

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【題:時計の針】

 この春から、私は都会の方にある大学へ通う。

 そう決まったときは子供のように喜んだ。

 都会が楽しみだということも勿論だが、なんてったって一人暮らしができるのだ!

 絶賛反抗期中である五歳下の弟やら、口うるさい両親から離れられ、自由に過ごせる――なんて魅力的だろうか。

 ワクワクした気持ちで新幹線に乗り、人生で初めて、都会へと足を踏み入れた。

 人々が早歩きで行き交う。車が一時も休まず動き続けている。

 私の実家らへんにあったしんみり静かな気配はまるでない。代わりに冷静さや焦燥感が辺りを支配していた。

 時間が、実際に私の地域よりも早く進んでいるのではと感じるほど、その差は明白だった。

 私の暮らす場所は、駅から15分の一般的なアパートだ。

 備え付けられているのは、小型冷蔵庫やらエアコン、布団などと最低限のもののみ。

 このままでは食事すらまともに作れないため、家電を買いに行こうと思い立った。

 大きなショッピングモールへ赴き、良さそうな包丁やフライパンなどを適当に購入した。

 そろそろ帰ろうかというとき、時計屋を見つけた。

 アパートには壁掛け時計がなかったからあると便利かも、と考え、入ってみた。

 大小、白黒、様々な時計が、棚いっぱいに並んでいた。

 カチリ、カチリと音を鳴らしているものと、スムーズに動き続けるものがあった。

 同じ時間を刻んでいるはずなのに、何かが違う。

 音を立てて進む針は、今どこにいるのかが分かりやすい。一秒ずつ、ちゃんとそこにある感じがした。
 一方で、音もなく流れていく針は、気づけば少し先に進んでいる。見ていたはずなのに、いつの間にか時間が過ぎているような気がした。

 なんとなく、時間を感じて過ごしたいと思って、音を立てて進む時計を購入した。

 その日から、都会に組み込まれた私の部屋に、カチリカチリと時を教えてくれる音が流れるようになった。

2/6/2026, 11:29:41 AM