いぐあな

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300字小説

その男怖がりゆえ

 あるところに一人の怖がりの男がいたという。男は怖がりゆえに何かあったときに立ち向かえるよう、身体を鍛え、剣術を磨き、怖がりゆえに魔王がいる世界では安心出来ないと、勇者になって魔王を倒し、怖がりゆえに後々、嫉妬と羨望から身を滅ぼすのではないかと、国王が勧める姫との結婚を断り、姿をくらました。

「……で、その男はどうなったの?」
「どうなったんでしょうねぇ」
 僕の問いに母さんが可笑しそうに笑う。
「母さん、森で魔狼の群れの足跡を見つけた。冬に餌が無くなって襲ってくると怖いから、ちょっと狩ってくる」
 父さんがそう言って、棚から剣を下ろし、出かけていく。
「うちの父さんは怖がりさんだからこそ、頼りになるのよねぇ」

お題「怖がり」

3/16/2024, 11:34:17 AM