静流川 洸

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『閉ざされた日記』

森の奥に迷い込んだ僕は、廃れた家を見つけた。いかにも使われていない廃屋だった。
屋根は落ち、壁には苔が付き、屋内から木が生えていた。

 その家の中で一番奥の部屋にそれはあった。木漏れ日に照らされたテーブルの上に置かれた一冊の日記。
それは簡単に読めないように、鎖と鍵で固く閉ざされていた。

 だが、その鎖も風化しており、触れただけで簡単に崩れてしまった。

 僕は日記を開いた。
ボロボロの紙には懺悔が書かれていた。

『私は愛してはいけない人を愛してしまいました。彼は素敵な人でした。見た目が美しいだけでなく、誰にでも優しく、何より私に優しかったのです。彼は私を愛している、私を守ると言ってくださいました。それが、家族に向ける愛だと私はわかっておりました。ですが、いつからか、彼を1人の男として愛してしまったのです。彼は何があっても私を守ってくれる。私を信じてくれる。その優しさを私だけの、私だけのものにしたかったのです。だから私は‥』

 ページをめくった途端、紙は破れ砂となり、風に吹かれて行ってしまった。

 どうして持ち主は、こんな日記をテーブルの上に置いたままにしたのだろうか。
まるで誰かに読まれるのを望んだように。
だが、それと同時に、読まれるのを拒否したい気持ちもあり、鎖と鍵を掛けたのだろうか…。

 風に飛んでしまった日記の書き手の気持ちはわからない。

 帰ろう。そう思ったとき背後に人の気配を感じた。

 こんな森の奥の寂れた家に。

誰だろう。そう思って振り向いたが誰も居なかった。

『会いたかった…兄様』

そう嬉しそうに呟く声が聴こえた気がした。

-fin-

1/19/2024, 12:21:56 AM