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 職場のデスクの上、書類の中に隠すように置かれた見ず知らずの俺宛の手紙。
 添えなくて良いから気持ちだけ知っていて欲しいと送り主のわがままに応えるように君の字とは違うお手本のような字を流し読む。便箋2枚は軽いはずなのに書き手の涙を吸ったのか重く感じた。

〔家族に向ける慈しみをいつか、と願ってしまった愚かな私を笑ってくださって構いません。どうか、お幸せに。せめてそれだけは願わせて下さい。〕

 「好き」と直接的な表現はどこにも書かれていない。けれど記された文字の端々に好意が読みとれる。知らぬ誰かの想いがこもったそれを職場で処分するわけにも行かずに持ち帰ってしまった。自室の机でも風景に溶け込めない異質な紙は、捨てて拾われ読まれるよりも燃やすことにして暖炉にくべた。
 火が移る。俺のためというより書き手の心の整理のためだろう。端から徐々に燃えて、上等なそれは灰になっていく。
 火の勢いは瞬きの間におさまり、ぼんやりと揺らめく炎の中、君を思う。俺ならどう伝えようか。ストレートに気持ちを伝えず君だけに分かるような

 鮮烈で熱烈な、俺らしい I『Love you』は…
 
「…君に刺されたい、かな」
 傷痕が一生残るくらいのそれがいい。

2/24/2023, 3:42:36 AM