朝が来た。と思った。
寝転んだまま右手を伸ばし、カーテンを開く。不思議なことにあるのは街灯の光ばかり、ビルを覆う窓は灰色で、随分遅い時間に思えた。すっとため息を吐いて、再び床に着くが、拍動が誰かに叩かれてるようで、少しも収まる様子はなかった。
仕方ないと、いつもの習慣をしようと立ち上がる。コーヒーを挽き、ドリップの間に飯でも作ろうと、冷蔵庫を開ける。
私は目線を落とさないようにして、卵とベーコンを取り出した。
ベーコンが塊のままだったので、包丁で切ろうとしたとき、あることに気づいた。普段使っている包丁がないのだ。
切れ味も良く、肉を切るのに最適な大きな包丁。どこに無くしたのか。
シンクにも、棚を探しても入っていない。
一体どうしてしまったのか。
へばりつくような汗が流れ、悪寒が走る。
頭に浮かぶ忌まわしいものがゆっくりと溶けて、その感触を想起させた。
私は風呂場に向かった。刃こぼれした包丁に黒いものがべっとりついている。
それから、私の眠れない夜がはじまった。
『眠れないほどに』
12/5/2023, 1:24:55 PM