うどん巫女

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窓越しに見えるのは(2023.7.1)

1年前、高校に入学したその日、僕は恋をした。
緊張と不安と一抹の期待を胸に抱えながら、教室の窓際の席から見えた彼女は、中庭で1人、花に水をやっているようだった。その慈しみを滲ませた横顔が、今まで見てきた何者よりも美しく思えて、きっとその時、僕はあの子に恋をした。
次の日、同じ学年の教室を全部見て回ってみたけれど、あの子はいなかった。もしかしたら、先輩なのかもしれない。
その次の日は二年生、そのまた次の日は三年生の教室を探したけれど、やっぱり見つからない。
けれども、帰り際にふと、教室の窓から向かいの校舎の屋上を見上げると、空に向かって手を伸ばしている彼女が見えた。
慌てて屋上に向かったけれど、すでに彼女はいなかった。一体ここで何をしていたのだろうか。
それからも、彼女が何者なのか、知ることはできなかった。彼女のことを知っている人は、誰もいなかった。けれども時折窓越しに見える彼女の姿は、やっぱり相変わらず眩しくて、愛おしくて、僕は彼女を探し続けた。
三年生になったある日、図書委員として図書室の新聞を整理していると、最近のものに混じって、一つだけ10年ほど前の新聞があった。どうやら、この学校に関係のある記事の切り抜きのようだ。

『〇〇高校の女子生徒、飛び降り自殺 いじめが原因か』

あぁ、やっと見つけた。

その記事に添付された写真は、三年間探し求めた彼女のものだった。
花を愛する彼女の愛らしい笑顔を知っているのは、きっとあの校舎と僕だけだ。

7/1/2023, 10:57:55 AM