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病室

彼女は、毎日病室の窓から向かいの病棟の外壁に絡まり伸びる蔦の葉を見つめている日々。一枚ずつ散っていく蔦の葉と自分の命を重ね 「最後の一枚が散ったら、わたしも死ぬんだわ」と呟く。そんなジョンシーの呟きを売れない絵描きは聞いた。

そんな絵描きは、人生最大の一枚を描き上げる決心をするのであった。

彼女が病室の窓から、自分の命を重ね見つめていた蔦の最後の一葉は、次の日も次の日も、その次の日も、嵐が来ようとも散らなかった。

彼女は、この生命力に満ちた最後の一葉に励まされ、少しずつ体調を回復させた。

やがて、彼女の病気は全快し病室から動き出せるようになった。嬉しさに彼女は活動的になり病室の窓から、蔦の最後の一葉を見つめることもなくなった。

退院が決まった日、ふと病室の窓から外を見つめた… 「あの最後の一葉は何故散らないのかしら」窓際に近づいて目を凝らしてよく見るとそれが絵であることに彼女は気づいて驚いて尋ねた、病室に居た黒い服を着た老人が「あの絵は、貴女のために描かれました」そう言って、彼女の前に歩み寄った。

生きる希望を無くして生気を失いかけながら、絡まる蔦の最後の一葉を見て呟いた言葉「最後の一葉が散ったらわたしも死ぬんだわ」その言葉を呟いた時の目とはまるで違う力強く生気に満ちた目で彼女は問うた。

「どういうこと?」



黒い服を着た老人は、売れない絵描きがこの病室の扉の向こうから、来る日も来る日も彼女を見つめ、窓際のベットに座り壁に絡まる蔦の最後の一葉を見つめ溢した言葉を聞いたことを打ち明けました。

そして、その売れない絵描きが嵐の夜に描き上げたのが、あの蔦の最後の一葉だと話しました。

彼女は胸をつまらせ、カーテンを掴んだ。

「わたしは、この散らない最後の一葉にどれほど励まされたことか、是非お会いしてお礼が言いたいわ」そう言った彼女に黒い服の老人は首を横に振りました。

「絵描きは、この絵を描いた2日後に肺炎を拗らせ亡くなりました」

けれど、嵐の中この絵を描いたことが原因だとは言いませんでした。けれど、彼女は察して泣き崩れました。

老人が言いました。

「わたしは、貴女には彼の存在を知って欲しかった、絵描きはそのことを望んでいないかも知れないが、わたしは、貴女に絵描きの真実を迷惑でしょうが知って欲しかった、それが絵描きのこの最後の絵を最高傑作にするのだとわたしが信じたからです」

彼女は、涙をふいて「わたしは生きます、わたしのために描かれた最後の一葉に誓って」

胸に手をあて彼女はキッパリと言いました。

朝露に濡れた、最後の一葉の絵はキラキラと光っていました。


オー・ヘンリー著書 
「最後の一葉」オマージュ。


                 心幸
           
          












8/2/2024, 2:57:17 PM