春ノ花

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20歳

「なぁこの問題教えてぇ」
自習時間、僕の隣にやってきたのは言わゆる一軍男子の1人
隣の席のクラス1美人の女子に今日も今日とて近づきに来た
僕とその女子との間に椅子を持ち寄って、一軍男子は詰め寄っていた
その女子はいかにも嫌そうである
僕はこの光景を見るといつも胸が苦しくなる
ちらっと見ると、一軍男子を挟んだ反対側の女子と目が合った気がした
僕は何もできなかった

僕は成人式には行かなかった
あの場は言うなれば同窓会
まぁ僕の出身中学では実際に成人式の後に同窓会が開かれるらしい
僕はそこにも行くつもりがなかった
学生時代に青春を経験していなかった僕は、行ったところで名前すら覚えられていないような人種なのだ
簡単に言えば『友達のいないぼっち』だった
だから行かない、避けていた
同窓会は中学校で行われるらしい
中学校からの招待状で知った
僕は未だに実家暮らしをしている
そして中学校はすぐ近くにある
その日はできるだけ外に出ないようにした
出くわしたら面倒だ

学生が1番に明け暮れることは勉学ではない
それを自室のベッドで考える
では学生が1番に明け暮れることとは友人関係である
友達のいるいないはその後の人生に大きく影響する
僕自身はそう考える
学生時代に友人を作れぬまま進んだ先に今の引きこもりニートがある
そんな自分の経験から僕は勉学ではなく、友人関係に重点を置くべきだと後悔していた

僕は夜になると散歩に出かける
それが好きだから
でも親が心配することもあり、夜遅くには行かないようにする
本当は夜中の散歩が1番好きなのだが
今日もそうした
もうとっくに同窓会も終わってお開きになっているだろうし、そうした

僕が中学の前を通ると、門はまだ少し開いていた
本当はいけないのだが、僕は何も言わずにその門の隙間から校舎へと足を踏み入れた
それはただ単純に思い出にふけりたかっただけなのだ
学生時代を最後に人との関わりが全くなくなった僕にとっては、人生最後の記憶が残るのが学校と言ってもいいだろう
だからその学校の思い出にふけりたいから入った
誰もいない学校
階段を登って自分が勉学に励んでいた教室へと向かう
さすがにもう同級生はいないと思うが、一応耳を澄ませながらおそるおそると教室に近づく

教室の扉は少し開いていた
まだ誰かが残っているのだと思い、物音を立てずに踵を返す
しかし、教室内からの話し声や物音は一切していなかった
それに気づき、僕は戻って扉の隙間からゆっくりと顔をのぞかせる
そこには、誰もいなかった
僕はホッとして、教室内へと入る
おそらく鍵を閉め忘れたのだろう
そしてゆっくりと歩いて窓の側まで行って校庭を眺める
よく1人で放課後に残って勉強をしていた教室
そして、よく勉強の合間にこの窓から校庭で練習をする運動部の光景を眺めていたことを思い出す
「、、、」
充分思いふけることができた
しかし欲が出た
最後に僕は学生時代に座っていた席につく
こんな機会滅多にない
学校の門が開いていて、教室の扉も開いていて
これが最後の教室になるだろうと目を閉じて思いふける
「、、、」

どれだけの時間そうしていただろう
僕は目を開ける
そして教室から出ようと
「えっ!?」
「久しぶり」
隣の席には女性が1人座っていた
暗い教室に輝くような明るい格好をしている女性
暗い教室に溶け込むジャージ姿の自分が惨めに見えるほどに、彼女は輝いている
絶句している僕に彼女は続ける
「覚えてる?」
「えっと、」
「あの頃もここの席だったね」
彼女は前方を見つめ直して言う
「ごめんなさい、」
僕は席にちゃんと座り直して俯く
「そっかぁ。名前覚えてなかったかぁ~」
彼女はどこか楽しそうである
「君に関係なく、人の名前を覚えるのが苦手で、、」
「へぇ〜そうだったんだぁ。ちなみに私は覚えてるよ、名城くんだよね」
「えっ?、、」
僕は『友達のいないぼっち』のはずなのだ
名前を覚えられているはずがないのに、彼女は僕名前を呼んだ
「今日は来てくれないのかと思っちゃった」
彼女は柔らかい表情を見せる
「名城くんにお願いがあるの」
そう言われて、ちゃんと彼女の方を見て、そこでやっと目が合う
僕は思い出した
彼女はあのとき僕が助けてあげることのできなかった人なのである
「あのっ!」
僕は思わず声を上げた
そして自分勝手に続ける
「あのときは、助けられなくてごめん」
彼女の表情は固まる
そして、一筋の涙が流れた
僕は慌てた
「えっと、ごめん自分勝手で。お願いがあるんだよね」
「うん。私と友達になってください」
僕の目からも一筋の涙が流れた

1/11/2026, 3:01:47 AM