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 一刻も早く龍也に会いたいのに、電車は行ってしまったところだった。既読がつかないメッセージを見つめながら、俺は地団駄を踏んだ。永遠とも思える数分後、ようやく来た快速電車に飛び乗った。

 窓から見える景色は、いつまで経っても住宅街。古びた家々が、時を止めてしまった気さえする。何でこんなに先に進まないんだろう。

「先に進んだと思って油断するなよ。すぐに追いつくからな」
 俺がプロの将棋棋士になったとき、龍也は奨励会三段だった。プロ一歩手前の養成機関。だけど、龍也にとって、その最後の一歩は果てしなく遠かった。

 あれから三年。
 龍也が11勝5敗で今日を迎えたとき、俺は半分諦めていた。ここ一番で勝利を逃す龍也は、今日もまた駄目だと。
 努力と才能は誰よりあるはずなのに、大切な対局では必ず負けてしまうのだから。

 そう思って俺は現地に行かなかったのに、龍也は2連勝してプロ入りを決めた。手の中がじんわり熱くなる。
 まだ、メッセージは既読にならない。きっと龍也のもとには今ごろ大量のお祝いメッセージが届いていて、開ける暇もないのだろう。

 電車が駅に着くと、扉が開く隙間からすり抜けて、ホームに飛び出した。
 将棋会館に着いたら、言ってやる。

「お前、諦め悪すぎだぜ」と。
 だって、そういう奴は絶対に、盤上でも人生でも強くなるのだから。

9/20/2025, 1:32:26 PM