【手ぶくろ】
貴人の所有物に触れる際には、必ず手ぶくろをつけなさい。下賤な者の肌が触れるなど決して許されることではありません。物心ついた頃から、常に厳しく言い聞かされてきた。それなのに。
「そんなもの要らないよ。良いから早くはずして」
僕の手を覆う手ぶくろを不愉快そうに見下ろして、この世で陛下の次に貴い主人は吐き捨てた。戸惑っていれば無理やりに腕を取られる。やめてください、汚れてしまいます。そう震える声で述べれば、その方は嘲るように口角を持ち上げた。
「汚れる? どうして? 君も私も同じ人間だ」
ずっと身につけていた手ぶくろがあっさりとはずされる。美しい指で、その方は僕の手を握りしめた。
「ほら、綺麗な肌だ」
そう告げたその方の柔らかな微笑みを、初めて触れた人の手の温度の優しさを、きっと僕は永遠に忘れないだろう。
12/28/2023, 4:17:28 AM