水谷なっぱ

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ただ、必死に走る私。なにかから逃げるように。

「こちらアイリッシュシチューとパンケーキです。パンケーキはおかわりができますのでお声がけください」
そうシャーロットは微笑んだ。
それをありがとうと受け取るのはリオとエミリーの二人で、仲睦まじい二人を見てシャーロットは目を細くする。
たぶん、わたしは逃げてきたんだろうなあ。シャーロットは二人に背を向けて思う。ずっとずっと逃げたくて、ちょうど村にきた勇者リオと精霊使いエミリーの二人に連れ出してもらったことを思い出す。
走り続けた先で、死にものぐるいで魔族や魔王との戦って、気付いたら彼女は銀枝亭でウェイトレスをしていた。
シャーロットはわからないものだと思いつつ、テーブルを周り空いた皿を下げ出て行く客に頭を下げ、常連客との雑談に応じる。
帰りたくない。逃げて出てきたあの村に、絶対に帰りたくない。シャーロットは首を振った。
彼女はまだ逃げ続けている途中なのだ。

5/30/2023, 11:38:32 AM