記憶喪失で保護された男は病院のベッドにいた。
いろいろ質問されたり、歩かされたり走らされたり泳がされたり、記憶を復活させるためにいろいろ試された。薬もいろいろ飲まされた。
それでも記憶は戻らなかった。
最近では朝昼夜と「何か思い出しましたか?」と聞かれるだけになった。
実は思い出しているのである。
酷い生活だった。
安アパートに一人暮らし、借金もあった。
仕事はあるにはあったがとても人様に言えるものではなかった。裏稼業も金にならないと惨めなものだ。
そして仕事のトラブルから追われ、追い詰められ、半殺しにあったのだ。
決して戻りたい人生ではない。
「何か思い出しましたか?」
「いや、何も……」
何もいらない。
ただ、この病室で静かにしていたい。
4/20/2026, 2:22:29 PM