フィクション・マン

Open App

『波音に耳を澄ませて』

自分の家の近くに海があるって言うのは良い事だ。
悲しい時、辛い時、悔しい時とか、なんかあったら心を落ち着かせるために僕は一人で海に行くんだ。
学校生活は楽しい…はずなんだけれど、ある子を庇ってから虐めのターゲットが自分になってしまった。
クラスの全員が空気読めないやつって僕を責めて、僕を虐めてきたんだ。
空気の読めない奴でいい。誰かが虐められているのを見て、それを当たり前と受け取って生活する方が僕は絶対嫌だから。
けれど、虐めは少しずつエスカレートしているし、不良たちはとっても怖いし、もうどうすればいいのか分からなかった。
ただ、僕は毎日この海で一人、波音を聞いて憂鬱な気分を晴らそうとしているだけだった。こんなことしても、なんにも変わらないのに。
溜息を吐いて、砂をいじる。靴の中に砂が入ったけれどお構い無しに僕は砂に足を突っ込んだ。
気持ちいい。暖かくて、なんだか包まれているみたいで。
一人虚しく砂遊びをしていると、波ともになにか音が聞こえてくる。
……ポチャン。
ポチャン?何の音だろう?もう一度、耳を傾ける。
…ポチャン。
やはり、波打つ音の中に紛れて、なにかの音が聞こえる。良く、耳を澄ませてみれば、あっちの方向から音が聞こえてきた。
ゆらゆらと浮いているものが見える。
え、あれクラゲ!?
大きなクラゲだ。ウミガメと同じくらい大きなクラゲで
、青色で触手が異常に長かった。
そんなクラゲがふよふよと泳いでおり、僕は恐怖を覚えた。ここは海水浴でも、子供達に人気なのに。
あんな危ないのがいたらまともに泳げないじゃん!とか思って、もう少し近寄って見てみようと立ち上がった瞬間、いきなり強風がやってくる。波が砂浜に強く打ち上がったかと思えばクラゲも一緒に陸に吹っ飛んできた。しかもこっちに向かって!
「わぁー!!!」
でっかい図体してる割に軽々しく飛んできたそれに恐怖を覚えた。僕は女の子みたいな叫び声を上げてそれから離れた。
びしゃんと打ち上げられたクラゲはすぐにぐったりして、自力でプルプル動いて海の方へ戻ろうとしている。
細い職種で戻ろうとするが、戻れるはずもなく、苦しそうだった。
…なんだか可哀想だなぁ。
そう思った僕は、そのクラゲを落ちてた流木の破片で海に戻してあげた。
クラゲはそのまま波に乗って、ぷかぷかと泳いでいく。途中、こっちを見てるような気もしたけれど、クラゲの目なんてどこにあるかもわかんないので、たぶん気のせいだろうと思った。
その日の夜、夢を見た。僕は浜辺に立っていて、僕が海の方向を見つめている。海鳥の鳴き声と、波音だけが辺りに満ちていた。
なんなんだここ…どこだろう。
僕が困惑していると、遠くの海から誰かが歩いてくる。明らかに人間では無い、キノコみたいな形をした生き物が僕の方へ海の上を歩いて向かってくる。
その近付いてくる得体の知れないモノの姿がようやくわかった。
クラゲだ。しかも、今日助けたクラゲ。
困惑していると、クラゲが自分の目の前まで歩いてきて、喋り出す。
「……乱れた心は、波打つ音で静まり返る。ここには、海と君と、私だけだ」
当たり前のように喋るクラゲに驚く。
クラゲの声は、男性とも、女性ともとれない曖昧な声で、とても穏やかで、気品に満ち溢れたものだった。
クラゲが話し終わると、クラゲが僕の体を触れようとする。触手で。
毒を刺されると思った僕は避けようとしたが、体が動かない。もがいていると、クラゲの触手が自分の頭をべチャリと触れる。
しかし、痛みはなかった。それどころか、少し、心に余裕が出来た気がした。
「君が私を助けてくれた。その行動は、なかなか出来るものではない。君には、普通の人間には無い勇気と優しさを持ち合わせている。
そして、君は今変化を遂げた。案ずることなく、前に進むんだ」
変化を……?え、なに……?困惑している自分を置いてけぼりに、クラゲがまた海の方へと歩みを始める。
一体なんなんだこれは。呆然としていると、クラゲがもう一度振り返り、「ありがとう」と一言だけつぶやいた。
そして、目を開けると朝の七時。
なんなんだろう、今の夢は。変な感情のまま、身支度を済ませて自分は学校へと向かった。
学校へ着くやいなや、教室のドアを開けた途端、みんなが笑っていた。なんで笑ってるんだろうと思っていると、そこには鼻血を出している男子の姿があった。
「あ、お前来てたの?」
「……なに…してるの……」
満面の笑みを浮かべながら、その男子を殴ったであろう不良がその男子の頭を掴んで机にグリグリと押し付ける。
「こいつが俺らのこと邪魔したんだよ。お前のこと虐めようと机の中のもん漁ってたらやめろって。マジで自分の立場わかってねーよなーこいつ!あはは!」
周りの人間もクスクス笑いながら、その男子が虐められているのを見ていた。
僕は、走り出す。
「おい!!!やめろよ!!!!」
「は?」
不良は、正直怖い。凄く怖い。殴られそうだし、まず性格が怖いし、人を虐めてる時が一番楽しそうにしてるのが本当に怖い。
しかし、怖い思いを引っ込めて、自分は前に出る。
「来んなよドブ臭い奴が!」
僕をおっとばそうと不良が手を伸ばす。すると、不良は急に手を引っこめて急に痛がり始めた。
「いっ…いってぇ!!!ヒリヒリする……なんなんだよこれ!!!いてぇ……!!」
手を抑える不良。僕はそれを無視してその子に駆け寄って、保健室へ連れて行く。
あとから聞いた話だと、どうやら僕に触れようとした瞬間に、何かに刺されたような痛みが走ったらしい。
赤く腫れ上がったその手を病院に診てもらった結果、なんとクラゲに刺された症状と同じらしい。
僕は何もしていないけれど、僕にやられたと不良が叫んでも、医者はクラゲの毒を中学生が所持できるわけが無いと一蹴。
結局、不良は腫れ上がった患部を冷やしながら薬を塗布して、経過観察となった。
僕は、夢で見たクラゲを思い出す。
あのクラゲが、助けてくれたんだ。
僕は、感謝しきれなかった。
その日の帰り、僕はもう一度海へ行った。
沈みゆく太陽が、今日の終わりを告げている。海が夕焼け空を映し出す。世界はひと時の金色へと変化を遂げていた。
気持ちの良い風が、僕のからだを包み込む。
クラゲがいないか僕は辺りを見渡す。
ポチャン。
さざめく波音の中、ポチャンと音が聞こえた。
僕は、波音に耳を澄ませてよく聞いてみる。
ポチャン。
やっぱり聞こえる。音の聞こえた方向を振り返ると、そこには昨日のクラゲが浮かんでいた。
クラゲの目や、顔がどこにあるのかは分からないけれど、クラゲはこっちを向いていることだけは何故か理解できた。
僕が手を振って、ありがとうと告げる。
すると、細い触手を上げて、クラゲも僕に手を手を振る。
そして、クラゲの声が聞こえてきた。
「救う物は、救われる。摂理さ」
そう言って、クラゲは海の中へと消えた。
クラゲにひとしきり手を振った後、僕は美しい海をもう一度見る。
もう一度耳を澄ませてみる。
聞こえてくるのは、波の音だけだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『青の風』

風を感じたい。
そんな理由で、男はオープンカーを買うことにした。待ちに待ったオープンカーを、乗り回す。
その感想を、友達は聞いてみる。
「どうだったんだよ?初めてのオープンカー」
どうせ感想は、俺達に自慢をする言葉だろうと思っていた。なぜなら、男はオープンカーを買った瞬間に皆に自慢をしていたからだ。
『安月給じゃ買えない値段だぜ?俺は高級取りだかんなー!!がはは!風感じれるぜ?風だよ風!うぃ〜!』
こんな感じで、オープンカーを買った瞬間にうざいと言うほど自慢をしてくる。あと、低所得者とかいちいちイライラする言葉も言ってくるし。
確かに、俺達よりも年収が高い仕事に就いている(IT企業)やつには、衰えているかもしれないけど…と、友達は思っていた。
そのため、楽しかったの一点張りだろうと予想していた友達だったが、男の帰ってきた言葉は、『やばかった』の一言だったそうだ。
その日は気温三十五度。風を感じようとフルオープンにし、車を走らせる。
確かに、風は感じた。感じたは感じるのだが、走行風に当たっているとはいえ、シートと身体の間は汗まみれだし、何より太陽の光が鬱陶しい上に暑い。
圧倒的爽快より不快が勝ったそうだ。
噴き出す汗に不快感を覚え、もう屋根を閉めようとした瞬間だった。
「もう閉めちゃうの?」
「……は?」
男一人しか乗ってないはずなのに、女の子の声が聞こえる。もしかして、隣車線のやつが窓を開けて話しかけたとか!?色んなところを見るが、隣車線にも後続車にも前にもどこにも車なんてなかった。
「……気のせいか」
「ふふふふ」
一人で呟くと、女の子の笑い声が聞こえてきた。
上からだ。ふと、上を向くと、そこには青色の髪の長いかわいい女の子が男のことを覗き込んでいた。
幽霊だと思った男は叫び声をあげたが、停車は冷静に対処し、その女の子を見る。
車を追いかけてきたのか!?いつ!?いつ取り憑いてきたんだよ!?
困惑し、冷や汗をかく男に女の子は近付く。
「気持ちいい?」
「……あ?は…?」
「風を浴びるの」
「……えっ……あ……いや……」
今、自分は幽霊と話している。その事を考えていると、背筋が凍りつく。
顔をこわばらせていると、ニコッと女の子を笑う。
「気持ちいいよね!」
「あ……は、はひ……」
早く逃げたい。目の前にいるこの世の者ではない化け物から早く。
男は滝のように冷や汗を大量にかいていた。
「…大丈夫?」
女の子は、不安そうな顔になる。女の子から見た男の顔は、顔面蒼白で汗を大量にかき、今にも後ろに倒れそうになっているからである。
「そっか、暑いよね。涼しい風をあげるね」
暑いのかな?と思った女の子は手を上げると気持ちのいい爽やかな風が吹いてくる。
「……?」
涼しい風を浴びた男は、急に冷静になる。暑さで脳がやられていたのかもしれない。なぜ、目の前の女の子にそんなにも怖がっていたのか。
幽霊はたしかに嫌いだ。目の前にいる女の子もふわふわと飛んでいて、幽霊なのは間違いないが、それでもこの子は悪霊とは違うように思えてきたらしい。
「太陽って、気持ちいいよね」
「あ…あぁ……」
悪意も憎悪も感じない、純粋無垢な女の子の声だ。男は、ここでこの女の子は大丈夫なタイプだと分かった。
「こ、怖がって悪かったな……」
少し申し訳なさそうに謝る。
「うん?なんのこと?」
女の子は分かってはないみたいだった。
「……えっと、お前、ここら辺で死んだのか?」
「うん?」
「その…幽霊、なんだろ?」
「?」
女の子はキョトンとした顔で男の顔を見る。幽霊?誰が?みたいな感じで。
もしかして、自分が死んだことにも気付いてないのか?と男は思った。
男が次に何を言うか考えていると、女の子が口を開く。
「私は、風の子だよ」
「……は?」
男は困惑した。風?風の子?なんだそら????
幽霊じゃねーのかよ?だったらこいつは何もんなんだよ!?
頭の中で様々な考察が飛び交う。そして、行き着いた答えは、この子供は風の精霊なんだ。ということだった。
もう、男はサングラスをかけてどーでもいいやー状態に走った。
そして、また屋根をオープンにして車を走らせる。女の子はまた着いてきた。なんなんだこの子まじで。と思ったがもうどうでもいいのでとりあえず走らせた。
今度は、女の子のおかげで涼しくはなったが、太陽が眩しい上に肌にダメージが食らう。
そう思ってると、女の子がニコッとして太陽に手を向ける。すると、雲が太陽の近くに寄っていく。
風の力か!!
太陽が雲に隠れ、とても気持ちのいいドライブへと変化していた。
「うぉー!!お前すげーな!!」
女の子にハイタッチをする。
女の子は楽しそうに笑った。
そのままスカイラインを走りすぎ、街に戻ろうとした時、女の子が離れてく。
「ん?おい!どうした!?」
女の子は手を振ってバイバイと告げた。すぅっと消えると同時に、涼しく、心地のよい風がより一層強まり、まるでそれは真夏の季節ではなく、春のような気持ちの良さだった。
この話を聞いた友達はあまりにも嘘くさいため信じてなどいなかった。でも、男は本気でそう話しているため、お前幻覚でも見たんんだよってことにしておいた。
で、肝心の車はどうなんだよ?と質問する友達。

「んー…暑い日はクソ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『青の風』のお題を上げられなかったため、『波音に耳を澄ませて』と一緒にあげました。

7/5/2025, 7:16:55 PM