ささくれ尖った心を、風に乗って香る白檀が慰める。人間だった頃の忌まわしい記憶に苛まれていると、あの人はいつの間にか私のそばにいる。特に何をするでもなく、ただ静かに私を抱き上げて庭先を歩く。彼のいない世界に比べ、こっちの風は柔らかい。作られた肌にも微かに感じる優しい冷たさが心地よい。
「今日は庭の調子がいいなぁ。」
あの人が聞き慣れた声で呟く。風が運んだ愛しい声が作り物の耳に流れ込むと、それだけで私は安心できる。
とっくに失ったはずの体温が、動けない私を包んでいるようだった。
4/29/2023, 4:47:35 PM