お題/沈む夕日
オレンジ色の輝きが、校舎を照らす。同時にその輝きは、いつも明るいあなたに、影を作り出した。
「……あ……」
思わずこぼれた声は、何かを伝えようと思ったわけではなかった。
憧れていた。
私とは違う、あなたに。真っ直ぐ、真っ直ぐ、ただ前しか見られない私。どんなに些細だとしても、曲がったことを、絶対に許せない私。
どれだけ誰かに咎められようとも、私は、やめられなかった。
偽善と言われた、悪意の込められた言葉は私に届いた。それでも、それでも。私は生き方を変えることはしなかった。できなかった。わからなかった。
それでも。
私は私が好きではないけれど、それでもあなたが言ってくれたから。
「そういうところが、きみの良いところだよ」
その一言だけで、私はまだ歩ける。前を向いて行ける。でも時々、羨ましかった。器用に生きられるあなたが。私とは正反対の生き方。いつもなら、きっと相容れないひと。けれど何故か、あなたの生き方だけは、私の瞳に、美しく映った。
これは恋ではない。愛もない。ただの、ただの、憧憬だ。
人のずるさも、弱さも、受け止めて。周りを照らすひと。光源のようなひと。
そんなあなたに、一瞬だけ、影がかかった。
その瞬間、私のなかに騒めく心があった。
憧れていた。あなたに、あなたの生き方に、憧れていた。美しいと思った。それは本心だ。なのに、なのに、なのに──私は、どうしてしまったのだろう。
美しいあなたに、影がかかった。本来ならそれは、私の中で許せないことのはずだ。美しいあなたを損なう行為のはずだ。憧れたあなたを傷付けることのはずだ。
それでも、ふと、思ってしまった。
あなたの生き方に翳りを作ってしまったとき。それは、どんなに、美しいものなのだろうか。
どんなことでも受け止めてくれるあなたが、拒絶を見せるのは、どんなものなのだろう。
ああ、ああ……私は、どうしてしまったのだろうか。
やはりこれは、恋でもなく、愛でもなく。
けれど育った憧憬は、私の中で歪となっていく。歪は広がって、どろどろとした何かを作り出す。
憧れていた。憧れていたあなたを、損ないたい。私の憧れたあなたを、傷付けたい。
そんな私の胸中など知らず、あなたは笑う。
「そろそろ暗いね、帰ろうか」
4/7/2023, 12:40:17 PM