夜というパレットに容赦なく黒が追加された。
まだらに染まっていく夜の空に重みと厚みと密度が増していく。
紺色と黒色の境目が曖昧になった。
限りなく紺色の勢力がゼロになったとき、ちょうど日付が変わる。
あー……頭痛え……。
眼精疲労、寝不足、悪酔いの三重奏。
一定のリズムを刻んだ重低音に合わせて、三半規管がワルツのステップを踏んだ。
風呂はもう明日、……でいいか。
ベルトを緩め、シャツのボタンを外す。
常夜灯の光すら今の俺には強い刺激になりうるから、カバンを放り投げて真っ暗な部屋のなか、靴下を脱いだ。
吐く……ことはできなかったから、暗がりのまま適当に歯を磨く。
下着以外の服を脱ぎ捨てたあと、寝巻きを取り寝室へ向かった。
寝室では、ベッドの隅で彼女がすでに眠っている。
暗闇に慣れた目は、彼女を柔らかな光として捉えた。
膝を曲げて横向きに丸まっているのに、タオルケットはベッドの下に落とされ、シャツはたくし上げられている。
……頭痛に苛まれているとはいえ、酒に飲まれた思考では彼女の姿は目に毒だ。
彼女は夜闇の中でも、美しく存在感を見せつける。
暗い夜に小さな白色を混ぜたら光り輝く星となって瞬いた。
一等輝くその星に何度も何度も恋をするのだろう。
ベッドに落ちたタオルケットをかけると、彼女の体が俺の方に向いた。
「やぁ、……暑い……」
せっかくかけたのに。
ペンっとタオルケットを剥がされてしまった。
コロコロとベッドの隅まで転がってきて、ふにゃふにゃの意識で声を出す。
「おかーりぃー……」
しかし、すぐに小さく寝息を立て始める彼女に、俺は目元を緩める。
「……戻りました」
「むぬ……おつかれー……」
あ、ヤバい。
このままでは起こしてしまいそうだ。
律儀に会話を交わそうとする彼女の頬を撫でる。
「おやすみなさい」
「ん」
ぽや、とうっすらと目を開けた彼女が俺の首に腕を回した。
素肌から直接彼女の温もりを受けて、ベッドに引きずり込まれる。
「……いっしょ、に……」
「え、いや、俺っ」
今日はソファで寝ようと……。
鼻を掠める彼女のシトラスの匂いに誘われて、俺のその言葉は続けられなかった。
無防備な細い首筋に下心が疼く。
少し品のない音を立てて彼女の首筋に吸いついた。
「ん……ふっ」
くすぐったさそうに身を捩った彼女は、甘えるように額を擦りつけたあと、今度こそ深い眠りへと落ちていく。
その寝息につられて、俺も意識を手放した。
『Midnight Blue』
8/23/2025, 12:10:40 AM