ストック

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Theme:意味がないこと

今日は久々に姉と食事に行くことになった。場所は私の大学近くのレストランだ。
年の離れた姉はベテランと呼べる社会人、一方の私は講義よりサークルが楽しい大学2年生だ。
頻繁に会うわけではないけれど、ある意味で両親より近い存在が姉だ。
将来や恋愛なんかの相談も率直に乗ってくれるし(回答が生々しすぎることもあるが)、とても親身になってくれる。

ふと、後ろの席から唐突にディスカッションが聞こえてきた。

「人生の意味?そんなものないよ。存在しないものを求めて苦しむ動物なんて人間くらいだよ。あー、来世は絶対に大金持ちの家の水槽で掃除屋してるエビに生まれ変わりたい~!」
「確かに人生の意味って生物学?それとも科学全般?では定義されてないのかもしれないけど、でも本当に存在してないものなら、それを探すように人間が行動するのはおかしくない?意味を探しながら成長することで自己実現を果たすのが人間なんだよ。私は来世も人間がいいな」

学生御用達のこのレストランでは、稀にこんな熱心な議論が繰り広げられることがあった。

「就活が始まって自己分析とか始まると、人生の意味を真剣に考えちゃう子もいたな~。懐かしい」
姉が微笑ましそうに後ろのテーブルを眺めている。
「お姉ちゃんは人生の意味ってあると思う?」
「あの二人には悪いけど、人生に意味があるかどうかを議論する意味はないと思うな」
「どうして?」
「だって、意味があろうとなかろうと、次の日は必ず来るし忙しい日々は続いてく。だから、そんなこと考えてる暇ないし」
「…大人って大変なんだね」
「大人になる前だからこそ、大変なことだっていっぱいあるでしょ。…でも、純粋に自分のためだけに使える時間ってどんどん貴重なものになっていくから、ああやって議論するもよし、自分に向き合うもよし、好きなこと好きなだけ勉強するもよし。今の時間は大事にしなよ」

いかにも年上っぽい台詞を言いながらも、姉は後ろの席の二人を少し羨ましそうに見ていた。

11/9/2023, 9:21:03 AM