歯ブラシ、シャンプー、あとスリッパ……。
二泊三日の入院に必要なものを、ぽいぽいとボストンバッグの中に詰め込んでいく。
どうにも気が乗らないのは、この行為が入院の準備だからだろう。
だがこうしていつまでもだらだらと準備をしていたら、進むものも進まない。
見かねた同居人の彼が横から口を挟んできた。
「見てていらいらするんだよ」
私からバッグを奪い取った彼は、代わりにタオルや洗面用具やらをせっせと詰め込み始める。
「だって、入院いやなんだもの」
「たかが一泊二日の検査入院だろうが。その間堂々と仕事休めるじゃねえかよかったな」
替えの下着に目を通しながら、全く心のこもっていない棒読みで言われる。下着を見る目の方がよほど真剣なくらいだ。
「ちっともよくない。お腹に針刺されて、中身を少し採取されるなんて……」
言ったあとで処置中の惨劇をリアルに想像してしまい、後悔した。ひいと小さく悲鳴を上げてしまう。
彼はあくまでも飄々とした態度で笑った。
「大丈夫だって、腹に穴開けられるくらいどうってことないって。俺も同じ検査したことあるけど、寝てるうちにすぐ終わったよ」
「検査を受けたことは知ってるわよ。元はあなたの病気なんだもの」
「またそれ、いやみったらしい……」
口を曲げる彼に、私はまるで当てつけるように言った。
「私は繊細なのよ」
私は未知の行事にめまいを起こして今にも倒れそうなのに、彼はというと、のんきにルービックキューブで遊んでいる。入院中の暇つぶしにと準備していたそれを、私は苦々しげに睨んだ。
「入院はやっぱり不安だし、処置中は何が起こるか分からないし。でもあなたは一日中家にいるくせに、付き添いにも来てくれないって言うし……」
私のぼやきに一瞬動きを止めた彼だったが、結局は立方体の謎に立ち向かいにいった。私はルービックキューブ未満の女、と半ば虚しくなった。
2/25/2025, 3:39:25 PM