→ひらがなの声
彼は、嗚咽の中に声を震わせた。
「やさしさなんて……」
項垂れて、目を真っ赤にした彼から零れたその言葉は、まるで初めて話す幼児のように辿々しかった。
私は、彼の途切れた言葉の先を尋ねなかった。ただ、力の抜けた身体を抱きしめた。
彼の鋼のような筋肉質の身体に一瞬の緊張が走ったが、彼は無抵抗のまま私を受け入れた。
彼は、強がりを、猜疑心を、不信を捨てた。
今、私の腕の中にいるのは、人の優しさに初めて触れた獣だ。
テーマ; やさしさなんて
8/10/2025, 4:45:39 PM