「大嫌いです!」
何度目か忘れたけど、後輩の女の子が俺をキッと睨んで言った。
はいはい、いつものね。俺は何度目か分からない適当な相槌を打って、後輩の頭をぐりぐり撫でる。
「そっかー、大嫌いかー」
「そうです、大嫌いです! 私の名前を間違ってばかりの先輩なんて、嫌い!」
「そっかー、間違ってたかー」
別に、本気で間違えていたわけじゃない。たまに違う名前で呼ぶと、不思議なものを見る目で俺を見てくるのがたまらなく好きなのだ。とか、言ってしまうと怒られそうなので誤魔化すけれど。
「ごめんごめん。お名前なんて言うんですか、お嬢さん」
「もー! わざとでしょ、先輩!」
「はは」
「ゆず! もう忘れないでくださいよ!」
「そうそう、ゆずちゃん。俺の大好きな柚子の匂いのゆずちゃん」
頭を撫でる手を止めて、そのまま抱きつけば、後輩は腕の中で暴れ出す。
「からかってますよね!?」
「さあ、どうだろ」
「私、先輩のそういうところ嫌いです!」
「そっかー。俺のこと、好きじゃない?」
「好きじゃないです!」
「そっかー」
残念だなー。そう言いつつも、俺は後輩を離さない。後輩も、暴れる割に抜けようとはしない。好きじゃないとか言ってるけど、ホントはそこそこ心を許してくれてることくらい分かっている。
だから、俺は笑って受け流す。
「俺はゆずのこと好きだよ」
「は!?」
「なんちゃって」
「…………もー!! ほんっと、大嫌い!」
3/25/2024, 1:00:40 PM