冬山210

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『好き嫌い』

好き。好き。貴方が好き。
その見た目に惹かれたの。その口調に惹かれたの。
声を聞いて性格を知って、私は貴方を好きになったの。

だから、嫌い。嫌い。あの人が嫌い。
見た目も性格も初めから苦手だった。
その上貴方から好かれてるなんて、好きになれない。

貴方からの視線を奪っておいて、私に優しい言葉をかけるな。自分よりも他者を大切にして偽善者ぶるな。
やめてくれ。
あんたが良い人であればあるほど、私は惨めなんだ。


貴方は私のことを見てくれない。
貴方の中に私はいない。
それは仕方のないことだ。

でも貴方の中にあの人はいる。
あの人は貴方のすぐ近くにいる。
いつだってずっと。昔からずっと。


私は貴方が好きなのに、貴方はあの人が好きなのに、私はあの人のことを好きになれない。嫉妬してしまう。
それでは駄目で、きっとあの人のことを好きになれて初めて、貴方のことを好きになる資格が得られるの。
だって、自分の好きな人のことを嫌っている人間から愛されたって、何も嬉しくないもの。

だから、嫌い。嫌いなの。
あの人のことを好きになれない私が、貴方のことを本当の意味で愛せない私が、嫌い。

6/12/2022, 6:36:54 PM