青い鳥

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『スリル』

...送信っと。
遂に送ってしまった。このたかが十数文字を送るのに、僕は何分、いや、何時間かけたのだろう。あの人と出かけたいなんて思うのは簡単だが、行動するのはなかなかハードルが高い。この単語はどうとか、文末の形がどうとか、そんな普段は気にならないような、どうでもいい事まで気になって仕方がない。

返信が来ないか気になって仕方がない。そのくせ、もし今返信が来ても、少し時間が経ってから返すなんていうまねをする。いかにも落ち着いてる、こちらの方が一枚上手だとでも言わんばかりに。自分から誘っているのにも関わらず、だ。

聞き慣れた音がなる。画面が淡く光る。待ってましたと言わんばかりにスマホに飛びつく。が、開かない。というより開けないの方が正しい。今すぐ開いたら、鬱陶しいやつと思われてしまうかもしれない。そんなことが、頭を巡る。自分で自分を混乱の渦へといざなう。

何件かメッセージが来ているようだった。中身が知りたいが、何となく開けない。この時ほど、既読をつけずに内容を確認できる機能をアンドロイドにも搭載しとけと思ったことはない。深くため息をつく。無情に回り続ける時計の針を、ただ眺めていた。

ある人は、恋愛は付き合うまでのドキドキが一番楽しいという。相手との駆け引きなんかが醍醐味なのであろうか。当時の僕にそんなことを考える余裕など、微塵もなかった。が、確かに、あの時のスリルに近い感覚は、決して悪いものではなかった。

11/12/2023, 2:24:34 PM