サラリと音がしそうな、艶々とした長い黒髪を耳にかける。その仕草だけでも、他のクラスメイトとは違う、大人っぽいと感じてしまう彼女。
ただ黙々とノートへ書き込みをしていく、その姿をこうして眺めているだけでよかった。
彼女と俺とでは、違う世界の住人に思えたから。
凛とした美しさは、俺には眩しすぎて。だから最初から諦めていた。
ある日から、彼女に変化が訪れた。みんなは、気が付いていないと思う。
いつものように彼女は、自分の机から本を取り出す。そして、その本を優しく撫でて、ふっと笑顔を見せるようになった。
それは見たことのない、とても優しく美しい微笑み。
花が咲いたような表情とは、きっとこういうことなのかな。
何が彼女をそうさせたのか、自分の中に知らない感情が芽生えてしまいそうだった……
たまたま、彼女が図書室へと歩いていて行くのが見えて、思わずあとをついて行ってしまった。後ろめたさも感じたが、何か引っ掛かりを感じたから。
図書室に近づくと、彼女は珍しく歩くのが早くなった。その時、何かを悟ってしまった気がする。
知りたくなかった……でも大人なら勝ち目がないや……
図書室には入る勇気がなく、入口からただ彼女が笑顔で話す相手をただ虚しく眺めているだけだった。
『視線の先には』
7/20/2023, 9:30:07 AM