「ねぇ、起きてよ。秀人」
彼女は彼の冷たい頬に触れる、冬の冷えた空気が全身を包み込むような気がした
「どうした美咲、こんな所で」
彼は重い頭を持ち上げ彼女を見つめる
「どうしたって、、ほら、」
彼女は軽く呆れたように微笑むと指で示す
「え、、?」
頭を上げると、そこには煌びやかなツリーが浮かび上がっていた。
「あぁ、、クリスマスだもんな」
「どうする美咲、俺たちも行こうか?」
振り返って彼女を見つめる。
奥へと続く空間は幻想的な雰囲気に包まれており、家族や恋人たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。
遠い目をしている彼女の手にそっと指を絡める
「、、、エッチ」
「何言ってんだよ。いつもの事だろ?」
彼女が恥ずかしそうに目線を逸らすのを彼は微笑ましく見つめる。
「悪いな、」
彼女は彼の言葉に驚いたように、目をパチクリさせる
「えっ、、?」
「いや、、その。ほら、恋人らしい事出来なくてさ」
彼は恥ずかしそうに頭をかく
「好きだ、美咲。伝えるのが遅くなってすまない」
彼女は彼の言葉に軽く微笑む
「知ってた」
彼女は彼の手を握り返すと優しく微笑む。
「何年一緒だと思ってるの?、、私も好きよ」
彼女はその言葉を機に涙を落とす
その涙は彼女の頬を伝い、静かに雪の中にかき消される
彼は彼女をひときしり抱きしめ、指で涙を拭う。
「そろそろ行こうか。二人で一緒に」
彼は彼女の手を引き、光の灯る場所へと足を進める
「待って、秀人!」
彼女は彼を見つめると寂しそうに微笑む
外は一段と冷え込み何かを示唆するようだった
「、、、愛してるって言って」
彼は一瞬混乱したように彼女を見つめる。
「どうして、、急に」
「良いからお願い!」
彼女は彼にせがむような口調で言う
「あぁ、愛してる。大好きだよ」
彼は彼女を見つめ、頬に触れる。
その瞬間彼女の何かが崩れるような音がした
「、、最後に、、最後に」
彼女は彼のコートに顔を埋め、声を詰まらせて言う
「今までに無いぐら、強く、強く、抱きしめて」
彼女の要望に応えるよう、彼は彼女を抱きしめる
細い身体の震えが自然と収まるのを感じる
彼は彼女を離し、彼女にそっと唇を重ねる。
浅くもなく深いわけではない。ただお互いの体温を求め合うように1秒でも長く重ねた。
唇を離し終えた頃には、彼女の震えは完全に収まっていた。
「ねぇ、秀人。あの光の奥に向かってかけっこしない?」
彼女はそっと手を離すと彼の方をみる。
「かけっこ、、?珍しいな。良いよ。その賭け乗った」
「もし俺が勝ったら、、正式に結婚しよう」
彼女は一瞬彼の言葉に物憂げな顔をする
「とにかく、勝負よ?最後まで振り返っちゃダメ」
「振り返ったら、、?」
彼は悪戯っぽく彼女に聞く
「そうね、引っ叩くわ」
彼女はクスッと笑いながら言う
それにつられて彼も微笑む。
「行くよ、、、?」
彼女は彼にサインを送ると思いっきり背中を押す。
その時は、まだ何も知らなかった。ただずっと彼女がいてくれると思ってた
「ありがとう、愛してるよ」
遠くから彼女の優しい声が聞こえる
「バイバイ」
ただ俺は、光の方へ走ることしかできなかった
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「速報です、」
深夜を過ぎた頃、一つの知らせが届く
「午後23時頃、軽自動車が歩道側に突っ込み男女計2名が被害に合う事故が起きました。意識不明の状態で搬送されましたが、女性の方は頭部を強く打っていたため、たった今死亡が確認されました。男性の方は一命を取り留めましたが意識不明の重体です。目撃者によると、、、、、、、」
点滴が振り子のようにゆっくりと揺れ動く、荒い電子音が満遍なく響き渡る
「あぁ、、、、、、」
情けない声が部屋にポツンと響き渡った
ただ彼女の温もりだけが全身を浸食していく
俺は出来なかった
何も何も
出来なかった。
12/22/2025, 5:23:53 PM