サイレント・ナイト
12月25日、夜。渋谷にはなかなか珍しい小雪が舞い、一年に一度のこの日を彩っている。さらに今年のクリスマスは一味違う。サンタクロースがやってくるのだ、この東京のど真ん中に。
去年はパリ、一昨年はロサンゼルスだったが、今年は日本の首都、東京にサンタクロースがトナカイに引かれてやってくる。
彼はイエス・キリストの誕生を祝うこのパーティの司会であり、その姿を一目見ようと、渋谷中の液晶が東京の空を写す中継映像になっている。
彼は19時を回ろうとする頃にやってきた。
シャンシャンシャン...
そりに引っ提げた鈴のようなものを美しく鳴らしながら東京の空を舞うように滑る。彼は決して何か特別なことをするわけではない。流れ星にお願い事をするかのような、彼にまつわる迷信があるわけでもない。毎年どこかの町へやってきて、人々がクリスマスを祝う様子を見にくるだけである。
そんな彼も、私たちに一つプレゼントを与えてくれる。
クリスマスの渋谷であるから、遊びに来たカップルなどでいっぱいであり、会社員にとっても帰宅の時間であるから、渋谷の街は人だかりに溢れ、クリスマスをテーマにした曲と雑踏の足音で、なんとも心地の良いような悪いようなハーモニーが醸し出されている。
そこにやってきたサンタクロースはだんだんと地面から離れて、見える姿が小さくなっていく。そして、彼が右手に掲げた一つのベルを一振り、
「カランッ」
と鳴らすのである。
すると街に飛び交っていた様々な音楽、話し声、足音など全ての音がかき消され、ベルが響く音だけが聞こえてくるのである。ベルの響きも小さくなると訪れるのは静寂である。
雪の降る、クリスマスの渋谷に訪れる静寂、このうるさいほどの静寂は、数年ぶりのクリスマススノウに美しく彩られ、夢の中にいるかのような感覚を覚える。
そらに浮かぶ彼がもう一振り、
「カランッ」
すると、彼が与えてくれた凪はおさまり、日常の世界が帰ってきた。勇気を出して誘った女の子と、今夜を過ごしていたあの男の子はあの静けさの中に与えられた2人だけの空間に勇気をもらったのだろう。
あそこのスーツ姿の女性は無音という非日常の美しさに呆然としている様子だった。
音のない非日常、これこそ彼が、東京の街へ送るプレゼントであったようだ。
12/20/2023, 11:34:56 AM