わをん

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『君は今』

娘のバレエの発表会を見たのはずいぶんと昔。同じ年頃、背格好のみんなとよちよちと群舞を踊るさまはひよこの集まりのようで可愛らしいものだった。仕事の休みが合わず、年に一度の発表会を見ることができないでいたのだが今年は十年ぶりに機会に恵まれた。
ひよこだったあの子はバレリーナらしい姿勢の良さと所作の美しさを叩き込まれてソロパートを踊るまでに成長していた。灰色のひよこがましろい羽をまとった白鳥になり、目の前のステージでライトを浴びて優雅に羽ばたいている。そんなイメージが浮かぶとともに涙が溢れて止まらなくなった。妻が隣から忍び笑いとともにハンカチを渡してくる。
万雷の拍手の中、立ち上がって娘の名を呼べば白鳥は満面の笑みでこちらに手を振ってくれた。ハンカチがいくつあっても足りなかった。

2/27/2024, 3:11:09 AM