「では、また会いましょう」
名も知らぬ男とのやり取りは今月だけで既に三回目。流石に何かがおかしい。
きっかけは出先のコンビニだった。適当に見繕った昼食を会計したレジにあの男がいた。
「私も最近寝不足気味なんですよ。お医者さんにも薬を出してもらったりしてまして」
男は唐突に話し始めた。前回の続きと言わんばかりの内容だが、この男に会った覚えはない。名札を見てみると応援スタッフと記載されている。少なくともこのコンビニで会ったことはないはずだった。
返答に詰まっているうちに会計は終了し、ありがとうございましたの言葉と共にレジ袋が手渡された。
「では、また会いましょう」
付け足された言葉がやけに耳に残ったことを覚えている。 とりあえずこのコンビニは当分避けようと思ったことも。
それからというものの、度々男と顔を合わせることが増えていった。最初のうちは数ヵ月に一回だったが、今となっては一週間のうちに2~3回と増え、その度に知らない男の知らない話を聞かされている。違和感は恐怖心へと変わっていった。
もしかしてストーカーだろうか。だが良く聞くようなイタズラや物盗りの被害には遭っていない。これでは警察も頼れないだろう。
気がつけば男を避けるために自宅に引きこもるようになっていた。
ある日の昼頃、部屋のチャイムがなった。たぶん宅配便だろう。引きこもるようになってから買い出しは全てネットに頼りきりになっていた。
ドアを開けるとそこにはあの男がいた。
「隣に引っ越してきたものです」
状況が飲み込めない。寝ぼけているのだろうか。ほほの内側を噛み締めてみると確かな痛みと血の味がした。
男は挨拶ついでに話はじめた。また知らない話題だ。知らない男が知らない話をしている。それだけが異様に恐ろしい。
気がつけば話が終わっていたのか男が去るところだった。
「では、また会いましょう」
声が耳にこびりつく。ドアはとっくに閉めていたが未だに声が聞こえてくる気がしてこめかみの辺りを滅茶苦茶に掻きむしった。
男はまた、きっとやってくるのだろう。
11/14/2024, 6:20:39 AM