13分前

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「主、大丈夫ですか」
 布団に横になっているであろう主人に襖越しに声を掛けると、少しの間の後ぱたぱたと畳を手で叩く音が聞こえた。「大丈夫ではない」の意だろうか。「聞こえている」という合図だけかもしれない。とにかく、余程体調が悪いらしい。
 年頃の女性である主の寝所においそれと近付くのもいかがかと遠目に窺っていたが、流石に折を見て声をかけるしか出来ないのももどかしくなってきた。かといって、せっせと食事や看病と世話を焼く侍女たちの手伝いは経験不足で却って邪魔になるだろうし、そもそも本日の警護番として不用意にここから離れるわけにもいかない。
 ふむ、とひとつ唱えて考える。考えて、考えて、ぽんと思い付いた。

「主、宜しければ膝をお貸しましょうか」

 以前より甘えの一環なのか主が「膝枕して」と老若男女問わず数多の従者に声を掛ける姿を幾度も見ていた。「はしたないですよ」と窘められる姿も同じ数ほど見ていたが。幼少の頃ならまだしも近頃はいつものことかとまともに取り合って叶えてやる者も滅多にいないのだ。まあ、とはいえ体調が悪い時くらい構うまい。そう思いつつ、そろりと声をかければ。

「えっいいの!?」

 瞬間見えたのは、ぼさぼさに絡まった髪と、いつもより随分と青白い顔。体調不良は一目見て明らかだ。けれど、がたがた、がたんっと。主はそんな喜色に満ちた声とともに襖から飛び出てこちらに顔を見せてくれた。

 驚きや心配よりあまりの執念にちょっと引いたのは秘密である。


"楽園"

4/30/2024, 1:09:36 PM