薄墨

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床の上でうずくまる。
このままずっと、動きたくない。

湿った空気の匂いが鼻につく。
雨、降っているのだろうか。

もう何もしたくない。
全て投げ出してしまいたい。
つまらないことだって分かってる。
もう過ぎ去った事を、ああすればよかった、とか、なんでこんなことをしたんだろう、とか。
もうどうしようもないことを考えたって仕方ない。
昔の失敗なんて、つまらないことだと笑い飛ばせたほうがずっといい。

床で寝返りを打つ。
硬い床が肩甲骨に触れる。
剥き出しの腕が、床からゆっくりと離れて、また床に着地する。

どうしようもない過去の失敗。
もう記憶の底に埋もれた傷の話。
暗くて湿った、辛い感情の話。
つまらないことだ。
そんな話をするより、前向きに楽しいことを考えて楽しい話をして、何かする方がずっと面白いし、楽しい。

こんな閉め切った家の床でどうしようもないことを考えるより、思い切って外へ出て、電車の窓で飛び去る景色を眺めながら物思いに耽る方が、健康にも人生にもずっと良い。

自分自身だって、そっちの過ごし方の方がずっと好きだ。

でも。
偶にある。
今日みたいに何かに躓いて、何もしたくない日が。
つまらないことでも延々と続けてしまう日が。

つまらないこと。
つまらないことでも、もう暫くはここから抜け出せない。

洗濯物が山積みにされている。
ゲーム機が埃をかぶっている。
図書館の本が鞄に詰められたまま、放置されている。
…今日、やりたいことはたくさんあったはずなのに。

寝返りを打つ。
足を抱える。
湿った空気が辺りを包んでいた。毛布のように。

8/4/2024, 2:34:53 PM