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heart to heart


 深夜にふ、と目が覚めた。目覚ましもかけずにゆったりと眠れるなんてそうそうない、貴重な日だというのに。こういう時に限って目が覚めてしまう。どうせ今日はいつまでだって眠れるのだから夜中にちょっと起き上がったって支障はない。やけにはっきりと覚醒してしまった頭でそう割り切って起き上がる。
 時刻は午前4時を迎えたばかりで、あと少しすれば外が明るくなるころだろうか。オーバーサイズすぎて外では着られないからと他人(ひと)に押し付けられたカーディガンを羽織り、立ち上がる。
 寝室のドアを軽く開けたところで、リビングの明かりが目に飛び込んできて、どうやら誰かがいるらしいことに気がついた。相変わらずの神出鬼没ぶりに溜息をつく。そのほんの少しの空気の揺らぎに気がついたのか、ひょっこりと電気をつけた張本人が顔を覗かせた。

 「やあ、早起きだね」
 「……ああ、誰かさんが起こしてくれたおかげでな」

 本当に気が利かないだけなのか、気づいていた上で嫌味を言っているのか。何年側にいてもわからない。逆光で表情はぼやけているが、どうせいつもと同じスカしたとぼけ顔をしているのだろう。相手にするだけこちらのストレスが溜まるばかりだ。

 「嘘つけ、さっき起こしにいった時は爆睡してたくせに」
 「こんな時間に起こそうとするやつがいるかよ!」

 リビングに立ちふさがるデリカシーのない大男の肩を押しのけ、椅子に腰をおろす。おおげさに押しのけられた肩を押さえてついてきた男のスカした顔に、くっきりとした隈が住みついているのが見えた。

 「それで、いつまでいるんだ?」
 「……できれば明日の朝まではいたいんだけどね」

 コンコンと男が手元の端末を爪で叩く。その端末が一度でもなればそれが一分後でも数時間後でも、すぐにここを出るということで、そしてその端末がなる可能性は非常に高い、ということなんだろう。
 そんな隈まで作って、わざわざここまで来なくたって。そんな言葉は飲み込んで、そうかとだけ短く答える。そんなことはこいつだってわかってて、それでも俺が爆睡しているとわかっていても、それでもここに来たのが全てだ。

 インスタントのコーヒーを淹れる背中にそっと近づいて寄りかかる。重いよ、と彼が笑うのに合わせて、広い背中が小刻みに揺れる。

 「ミルク多めに入れろよ」
 「あれ、ミルク入れるの好きだっけ」
 「……ブラックじゃ眠れなくなるだろ」
 「そっか」

 彼が話すたび、背中が揺れる。彼の心臓が動くたび、とくとくと音がする。それが面白くて笑っているとこそばゆいからそこで笑うなと言われて余計におかしくなった。

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2/6/2025, 8:13:33 AM