願い事
夏の夜は、どうしてこんなに息苦しいんだろう。
熱気を孕んだ風が頬を撫でるたびに、心臓の奥まで蒸されていくみたいで、息をするのが妙に苦しかった。
街灯に照らされた舗道に立ち尽くしながら、空を見上げる。真上には月も星もなく、ぼんやり霞んだ闇だけが広がっていた。
せめてもう一度だけ、君の瞳に私が映ることがあれば。それだけでいい。他には何も望まないのに。それさえ届かない。
鈍く光るアスファルトを見つめる。
そこには私の影だけが細長く伸びていて、どこにも君の姿はなかった。
あの頃、もっと近くにいればよかった。照れくさいなんて言わずに、笑って、話して、触れていればよかった。暑苦しいほどの季節に、思い切りぶつかっていけばよかったのに。
夜空には虫の声が響いている。草むらから、小さな生き物たちの気配がやけに賑やかに届く。
なのにこの胸の中は、あの時からずっと静まり返ったままだ。
どれだけ願っても過去は戻らない。叶わぬと分かっているのに、それでも願い続けてしまう。
君が、もう一度だけ私を見つけてくれるようにと。
そして、ふと自分の心に問いかけた。
君が思い出になる前に、私はどれだけ君を想えばいいのだろう。
湿った夜風に吹かれながら、どこにも行けずに立ち尽くす。
願いが報われなくても、それでも心が向かうのは、やっぱり君だった。
7/7/2025, 10:42:53 AM