『星に包まれて』
「星に包まれたことってある?」
「今、現在進行形で包まれてる」
「いや、金平糖じゃなくてね」
「めっちゃ星、色とりどりのカラフルな星、勿体ない」
「転けて金平糖ぶちまけたのは悪かったって」
「許す」
地面に散らばった金平糖をしゃがみながら拾う。
ふと、空を見上げた。
空は今日もいつも通りで、満点の星空が輝いている。
この世界には夜しかない。
昔は朝や昼といったものがあったらしい。
よく分からないが、タイヨウ、という月の偽物みたいな物体が空から上がってくると、それは起こるらしい。
まったく、空から上がるのは月だろうに。ただの迷信だろう。
人々の生活は月が空に輝きはじめる頃に始まる。
朝起きて、歯を磨いて、朝ごはんを作って食べて、お庭の手入れをしたりして、軽く朝の空いた時間で、自分の体温を測りながら軽く小説みたいな短文を書いたりする、そして急いで学校や仕事に行って、月が沈む頃に帰ってきて、くたくたになりながら風呂に入って、ご飯を食べて、遠くの友人と電話したり、漫画やアニメを見ながら、眠くなって布団に潜るのだ。
ごく普通の生活だ。
――私達の暮らしは、星に包まれている。
星には色々な星の種類があり、一種の神様のように扱われている。
しし座の神様、かに座の神様、みたいに。
とある星の神様が一番空で輝くときは、結婚ピークになるし。
他にも、今月は漁業ピーク、農業ピーク、商業ピーク。
まあ、色々と生活に根付いているのだ、星は。
だから、こそ、当たり前にあるものが、無くなるかもしれないなんて、当然思いもしなかった。
星はあるのが、普通で。それは事象で。無意識で。
星が無くなるかもしれない。
そう言われたとき、そこで私達はようやく気づいたのだ。
私達は星に包まれていた、ということに。
「ねぇ、星って本当に無くなっちゃうと思う?」
「馬鹿が……無くないために、俺らは戦っているんだろうが」
「そう、だけどさぁ……」
星を食べる宇宙クジラ。
私たちは、その存在を発見して驚愕した。
そしてすぐさま、宇宙クジラを撃退する手段を編み出した。
星の力を使って、だ。
星を守るために星の力を使って戦う。
それが、星に選ばれた12人の戦士、私達だった。
そう、だった。
「もう、二人しか居ないね」
「二人も居れば充分だ。ラスボスの宇宙クジラさえ倒せば、もう星が脅かされることはない。あの十人も浮かばれるだろう」
「……そっか」
月が沈んだ今夜が――最終決戦だ。
巨大な宇宙クジラ。あの個体さえ、撃退すればいい。
……そのとき、私達が二人とも無事だなんて確証はどこにもないけど。
「ほら、決戦は夜だ。早く寝るぞ」
「あ、うん……ねぇ」
「なんだ?」
「もしも生まれ変わったら、何になりたい?」
「はぁ? ……そうだな、星になりたい」
「星に? そっか」
「なんだ、言いたいことがあるなら言え。最期かもしれんだろう」
「……そうだね、ううん、いいや! おやすみ!!」
「? あぁ、おやすみ なんなんだ、アイツは??」
最期だからこそ、だよ。
――生まれ変わっても、またこうやって会いたい。
私はあなたに、そう言って欲しかった。
ここでギクシャクするぐらいなら……。
愛してました。ずっと、今も。
私は口の中だけで噛み締めて、ごくりと言葉を飲み込んだ。
そして布団に潜り込んで、深く沈みこんだ。
私は星に、負けたのだ。
きゅっとする心臓を上から痛いほどに押さえ込む。
鼻を鳴らして、目尻から溢れ出す涙を枕に押し付けた。
でも、そうだな。もし明日、二人とも生き残っていたら、そのときは……あの人に告白してみよう。
星よりも、私を選んで下さいって、言ってみよう。
ほんの少しの希望と共に、私は目を閉じた。
――当たり前の日常が、明日も続くなんて保証がないことは知っていた筈なのに。私は信じてしまっていたのだ。明日も二人居られるだろう、と。
おわり
12/30/2025, 10:41:51 PM