「いやあ、有意義な時間だった!
やはり第三者に話を聞いてもらうというのは大事なんだな!」
ニコニコと明るく快活な笑顔を浮かべる先輩。
ここ数日先輩は暗い表情ばかりしていたから私は心の底からホッとした。
「まったくもう、心配したんですからね!
いきなり頭を打ち付けたりしてとうとうおかしくなってしまったのかと」
「君は中々辛辣だな! まあそれが君の良いところなのだが。
いやはや、悩み過ぎたら私は奇行に走るとわかったから今度からはちゃんと君や誰かに相談するさ。
そうだ、今度学食を奢るよ。
君の意見もしっかり聞きたいしな!」
「いいですけど……私、一人暮らしなんて考えたことないのでお役に立てるかどうか……」
「最初から一人暮らしの人なんていないさ。
そうだろう? 黒渕さん」
黒渕さんは「そうだね」と穏やかに笑う。
先輩のお姉さんでもある保健室の南部先生が紹介してくれた黒渕さん。先輩の大学へ進学したら一人暮らししたいという悩みにとても親身になって具体的なアドバイスをしていた。初対面の人にも優しくてしかも教え上手な人……この人はきっとモテてるはず。
……でも、なんで先輩はその悩みを真っ先に私に相談しなかったんだろう? 私じゃ頼りないと思われたのかな……
「ところで、これは貰ってもいいんだよね?」
そう言って黒渕さんは例の原稿用紙を私たちに見せた。
先輩は大きく頷いてシッシッと手を振った。
「持ってるのも見ているのも気味が悪いし、ぜひ貰ってくれ。
おそらく姉のおまじないの類いだと思うが、所詮素人の真似事だから変なことは起こらないはずだ」
「わかった。何かあったら南部先生に抗議しておくね」
そう言って黒渕さんはそっと原稿用紙をカバンに仕舞う。
その目が愛おしそうな悲しそうな感じに見えたのはなんでだろう……?
「しかし姉にも困ったものだ。中二病を発症したかと思えばおまじないにどハマりし、ありとあらゆるおまじない関連の本をかき集め、運気を上げるならこれをすればいいだとか恋愛成就ならあれをすればいいだとか……
ああ、思い出しただけでも気が滅入る……」
「そ、そんなすごかったんですか?」
「もはやおまじないに支配されている日常だったぞ。
例えば花束を買うにしても決まった順序で買わないと何かの効果がどーとかこーとか……
恩師にあげる花束ぐらい好きに買わせてほしかったんだけどな……
……あ、今言ったこと絶対誰にも言わないでくれよ。
私が話したとバレるからな」
「誰にも言いませんよ」
「南部先生にそんな過去が……大学で話したら盛り上がるかな〜」
「やめてくれよ絶対に!」
そうして三人で笑いあって今日はお開きとなった。
何かを忘れているような気もするけど、たぶん大したことないはず。
それにしても一人暮らしに大学かー……先輩ももう少ししたら受験生になるからそりゃあ悩むか。
……文芸部、どうなるんだろう。
2/9/2026, 3:07:55 PM