名前の無い音

Open App

『ひなたぼっこ』


理由は よくわからない
ある日 突然学校に行けなくなった

友達と喧嘩したわけでもない
親と喧嘩したわけでもない
それこそ 先生と喧嘩したわけでもない

でも 何故か 布団から出られなかった

みんなが仕事に行ったあと
そっと部屋を抜け出して
キッチンの冷蔵庫を開ける
冷たいお茶を飲んで ため息を出す

わからない 自分が

ぼんやりと 頭の中に浮かぶ
『怒られたくない』

親は嫌いじゃない
親の言ってる事は正しい
頭ではわかっているのに……
何かがモヤモヤする

部屋に戻って 布団に潜り込む

(消えたいな……)

そう思っても 簡単に消える勇気もない
こうやって みんなに迷惑かけてるのに
なんの役にもたたないのに……

ガチャガチャ バタンッ!

玄関のドアの音
誰かが帰ってきた
誰?みんな仕事なはずなのに……

「起きてる?ねぇ ちょっと!」

バタバタとやってきたのは
ママだった

咄嗟に『怒られる!』と思って
頭から布団をかぶる
私の部屋のドアが勢い良く開く

「ね!マック買ってきたからさ 食べよ」
「……食べたくない」
「やだー あんたの好きなマックシェイク! 今 カルピスなんだよ?買ってきたからさ ちょっと ちょっとだけ食べよ」
「じゃぁ 置いてってよ」
「ここじゃダメよ ほらGが出るから」

ママは 喜怒哀楽が激しい
料理は好き 掃除は嫌い
ライブハウスは好き 映画館は嫌い
変な親……と言えばそれまでだが

「今日 いい天気だったから セッティングしたんだってば!」
「何を? ってかさ ママ仕事は?」
「休んだ!」
「は?いいの?」
「いいのよ とりあえず ほら マック!溶けるからおいで!」

しぶしぶ 布団から出る
リビングに行くと
ママはベランダ側の窓を開けていた

「はよ来て 見て 見て」

そこには イスとテーブルが並んでいた

「なにこれ」
「ふっふっふー チャーリング!」
「……それを言うなら チェアリングね」
「それそれ! ほら座りなよ」

私は言われるまま ベランダに出た

いい天気だ

窓から見えるのは いい感じの青空と隣の家のベランダ

「食べよう!」

テーブルに広げられたハンバーガーとポテト
シェイクとナゲットまである

「いい天気だよ 見てみな」

空を見上げると 確かに良い天気
画になる青空だ

シェイクのストローに口をつける
冷たいと甘いが 口の中に広がる

「お日様はいいよ……
とりあえず お日様に当たりなさいよ」

ママが ナゲットをひとつ つまんだ

「……うん」
「……いいの のんびりしなさいな パパには私がなんとか言っとくから」
「……うん」
「なんかね 心が風邪引いちゃう時もあるのよ あるある 当たり前なのよ
風邪引いたら休むでしょ?同じことだと思うんだよね」

二人 ベランダでハンバーガーを食べる
日差しと風が思ったより気持ちいい

「もうさ 生きてりゃ優勝よ……」
「……ってか ごめん なんか自分でもわからないんだよね 」
「わからんもんよ そうだよ 私だってわからんもん 謝らなくてもいいんだよ」

もしゃもしゃと
テリヤキバーガーを食べている

「あ でも 1個だけ言わせて」

ママは 食べている手を止めた

「あのね 学校休むことも 悩むことも なんも悪い事じゃないから
誰かを嫌いになることだって 悪い事じゃない 」
「…………」

一呼吸置いて
またハンバーガーを食べ始めた
モグモグしながらつぶやく

「あんた 悪いことしてないし 間違ってないからね わかった?」
「……うん」
「ねぇ……そのカルピスのシェイク 一口欲しい」
「えっ……やだよ ってかもうないよ」
「全部飲んだの?はやっ!」

のんびりとした 時間が流れる
久しぶりのマックは なんとなくジャンクで
でも 悪くないなと思った

ママと二人
そのままベランダで
しばらく くだらない話をして 笑った

いい天気だ

「あ ねぇ せっかく平日に休んでるからさ
ちょっと なんか……どっかいこうよ」
「えー?やだよ」
「いいじゃない!」
「やだよっ!」
「ケチだなぁ」

ひなたぼっこは最高だ

確かにこれは 心の風邪なのかもしれない
風邪には暖かい日差しが必要だったのかも

少しずつ リハビリをしていこう
自分の心に嘘をつかないようにして
もっと 自分に出来る事をみつけよう
焦らずに 焦らずに

よし
明日もひなたぼっこを目標にして
生きてみるか!優勝!

6/11/2022, 4:28:49 AM