イオリ

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天国と地獄

 無人島に1つだけ何を持っていく?という話は誰もがしたことがあるはず。もし地獄に行くなら何を持っていくべきか。

 やはり脱出の道具ということになるのかな。

 西洋美術の描く地獄は、明確な拷問だ。悪魔や異形の怪物が、人間をいたぶったり丸飲みにしたりする。あれらを見ると全身全霊で逃げなくては、と思う。

 何がいいだろう。天国を目指すなら、スペースシャトルの様な乗り物かな。さすがに蜘蛛の糸じゃ心もとないし。

 それとも逆に考えて、脱出ではなく征服を目指す、というのはどうだろうか。マシンガンで悪魔を一掃し、第二の天国を築く。

 ただ、そうなると地獄が無くなって、罪人がさまよってしまうか。まいったな。地獄って必要なんだな。

 
 いやまて。そもそもなぜ僕は地獄に行くことが前提になっているのか。はじめから天国に行けばいいじゃないか。よし、天国に行こう。

 天国に1つだけ持っていくとしたら。

 天国ってどんな毎日なんだろう。みんなが幸せな毎日なんだろうね。みんな笑顔でさ、花も枯れずに、地震も起こらず、事件事故もなく。天使が祝福のラッパを吹いて。告白しても振られないのかな。

 ……なんとなく、それはそれでつまんなそうだな。

 よし。

 火を持っていこう。生まれた時に地獄の悪魔から授かった悪意の火種。

 胸の中から少しちぎって、天国の住人に気づかれないようそっと投げる。
 
 楽園にスリルをもたらしてやろう。

 どうだ、平和ボケした人間ども。慌てふためき、慄くがいい。人を信じず、人を裏切り、人を地獄へ落としてしまえ。仮面を剥ぎ取り己の醜い本性をさらすがいい。それこそが人間だろうが。偽善者どもめ。

 
 ……ええっと。僕はやっぱり地獄に行く人間なのかもしれません。心の中の悪意の火種を消す術が見つからない。いつか消せる日が来るのだろうか。

5/27/2024, 10:39:56 PM