『力を込めて』2023.10.07
絶対に離さないでよ、と息子が叫ぶ。わかったわかったと返事をして、自転車のサドルを押した。
息子は最近、補助輪を外したばかりだ。周りの友だちはみんな補助輪無しで乗れるようになったらしく、自分もそうなりたいと彼は言う。
懸命にペダルを漕ぐ彼を、俺の仲間たちが応援する。
最年長の彼なんて、自分のことのように感動して泣いている。まだ乗れてないのに。
最年少でメンバー一の健脚の持ち主である彼は、並走しながら器用にスマホを構えている。
後ろをもって支えているとはいえ、息子の自転車は右へ左へとふらふらしている。危なっかしくて仕方がない。
しかし、それも最初のうちだけ。息子も慣れてきたのか安定してきたような気がする。
これなら手を離してもいいかもしれない。他のみんなも離せと頷いている。
「いいか、前だけを見るんだぞ。足元を見んな」
そう声をかける。息子はうんと頷いた。
ペダルを漕ぐ足は止まらない。力強く、前へ前へ、進む。
他のみんなも、行け行けと拳を突き出している。
もう大丈夫だ。
俺は力を込めて、息子の自転車を前へ押し出した。
一瞬、自転車がぐらつく。危ない、転ぶ!
しかし、息子は耐えた。頑張って前へ進む。
俺の息子は、また少しだけ、お兄ちゃんになった。
10/7/2023, 10:30:23 AM