古菱

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お題:0からの

 テスト期間が終わって答案用紙が帰ってきた日、いまだかつて見たことのない数字が書かれた用紙を手に入れた俺は、桃田の前にそれを掲げた。
「見ろよこの見事な赤丸を」
「いや0点じゃねーか。今の台詞100点見せるときに言うやつだろ」
「ここまで清々しいと逆に自慢したくなったんだよ」
「清々しいのはお前の潔さだろ」
 桃田が短く息を吐く。桃田は俺と違って地味に成績がいいので、ここでこいつに「お前は何点だった?」と聞いてはいけない。晴れ渡った空のような俺の気分にわざわざ雨を降らすのと同じようなもんだ。
 周りでも、テストどうだった? という声がちらほら聞こえてくる。みんなこの白い紙に書かれた数字に一喜一憂してるんだろう。
「0点なら補修間違いなしだな」
「やめろ今の俺に補修の話はするな」
「現実を見ろ」
 桃田は無情にも、これから俺に訪れる未来を告げてくる。補修なんて授業とほとんど大差ない。普段の授業ですら右から左に流れてるのに、補修だからといって都合よく頭に留まるわけがない。
「桃田様、一生のお願いが」
「それ先週も聞いたけどな。なんだ」
「勉強を教えていただきたいのですが」
 教師が長々と話すより、桃田が教えてくれるほうが何百倍も理解できる。こいつは俺のことをわかってるので、馬鹿な俺でもわかるよう優しく説明してくれるありがたい存在なのだ。
 桃田はジト目を向けてくる。俺は負けじと真っ向からその目線を受け止める。どっちも引かずしばらくそのままの状態になっていたが、諦めたように桃田が「しょうがねーな」と言った。
 よっしゃと俺は拳を握る。
「0からの逆転劇を見せてやるぜ」
 意気込む俺に「まあ頑張れ」と桃田が声をかけた。

2/22/2026, 4:33:20 AM