見つめられると
「あぁ!なんて素晴らしい日!」
「あの人が、ついに!わたしを見てくれました!」
落屋だという男は、一枚の絵を見つめ、恍惚な感情に浸っていた。
ぴくりとも動かない彼の目を見つめては、頭を撫で、またそれを繰り返す。
壁にまた一つ、あの人の絵が飾られた。
ふと、あの人が自分を見ていると思えば、なんとも不思議な感覚が降り注いだ。
その感覚を噛み締めた後、男は酒場に出向きました。
暖簾を潜ると、店主がさぁ、どうぞ。と迎い入れてくれる。
つまみを頼み、酒をちびちびと飲んでいると、1人の男が席を陣取り、こちらを見る。
酒が入っていたこともあって、男は気分が良くなり、あの人のことを全てを話しました。
全てを聞いた男は「ふうん」と返事を打つと
「見定められているんだよ」
と、言った。
「見据えているのですか」
わたしがそう聞くと、不愉快でしたか、と彼が問う。
「あの人が?わたしを?」
「ありえない」
冷たくなったグラスを握り直し、男の頭を目掛けて投げた。
きゃああと言う客の悲鳴と共に、けたたましい音が鳴り響く。
「あなたが、悪いのです。あなたが」
そう何度か繰り返すと、男はガラスの破片で首を刺した。
「これは?」と、あの人が問いました。
二つの死体。
横には、少し血の付いたボロボロの紙切れが置かれている。
慎重に中身を開くと、そこには
“わたしを見てください”
拙い文字で、そう書かれていた。
3/28/2024, 7:05:11 PM