粉末

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「はいまた僕の勝ち。アイス買ってこい。」
「うぐぅ…くそー…。」
今日も2人が楽しそうでなによりだ。
「…ねえ、何か買い物ある?」
蚊帳の外だった私にも気をつかい声を掛けてくれた。
優しい子だ。
「では私にはコーヒーを頼む。そら、これでアイスも買いなさい。」
ゲームの敗北者は近所のコンビニへ買い出しの刑らしい。上着を羽織りスマホだけを持ったこの子に小遣いを手渡す。
「え!いいの?やったあ!ありがと!」
「ちょっと。あんたがお金を出したら意味ないんだけど。」
「まあ良いじゃないか。気をつけて行くんだよ。」
いってきますと元気に出ていった姿を見送り煙草に火を点けた。あの子の前ではどうも吸う気が起きない。
息を深く吸い込み煙を脳へ行き渡らせふうと吐き出すと生きた心地がする。私も立派なニコチン中毒なのだろうか。
余韻に浸る間もなくひと吸いだけした煙草は後ろから伸びて来たしなやかな手にぱっと奪われた。
「こら。」
「まあ良いじゃない。」
彼は私よりも年下だが落ち着きがあり背も高い。
さも当たり前のように私が口をつけた煙草を吸い軽口と共に煙を吐き出す姿は妙に様になっている。
「ほどほどにしときなよ。早死にするよ。」
「それ1本にするつもりだったんだがなあ。」
「そう。じゃあ返すよ。」
そう言うと彼はふーっと私に煙を吹きかけ、少し短くなった煙草を唇に押しつけてきたのでそれに答えてやった。
「こらこら。」
「早く吸わないとあいつ戻ってくるよ。」
「そうだな。窓も開けないとな。」
「まあ戻ってこなくていいけど。あんたと2人の時間も欲しいし。」
「こら。」

私は今幸せだ。それが誰かの犠牲の上に成り立っていることはわかっている。
欲深い私が死んで地獄に堕ちるのは構わない。
だが神様。この子達を道連れにはしないでくれ。
私のからっぽの心が満たされ幸福を感じる時
誰にも言えないこの願いを煙草の煙に乗せて
いるのかいないのかわからない神様へ祈っている。


神様へ

4/15/2024, 4:34:11 AM