トポテ

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今日は二人で星を見にきている。少し肌寒い、高い山。ここには月より明るい光はなく、星と月明かりが俺たちを照らす。空には豪華な星々が大袈裟に光る。神様が輝く星々の入った瓶を夜空に大胆にこぼしてしまったように見える。冷えた夜風が頬を優しく撫でる。
「綺麗だね。セイヤ」
春の陽のような、冷たい今の空気に似合わない温かく柔らかい声。
「うん、綺麗だ」
言葉は白い息となってひんやりとした空気に溶けていく。
「僕らって変なのかな」
突拍子のない言葉に呆気にとられる。
「どうしてそんなこと思うんだ?」
俺がチハヤの方を見ていると、チハヤも星空から視線を外し、俺の目を見る。星々に照らされる。明灰色の瞳には満点の星空が反射している。
「外で堂々と手を繋げないんだ。周りと違うことが怖くて」
今にも泣き出しそうな震えを帯びた潤んだ声。
「今繋げばいい」
俺はそう言ってチハヤの、凍えた細く関節が赤くなった手に手を重ねた。チハヤの目線が一瞬手に落ちる。恥ずかしそうに目をぱちぱちさせる。
「ここには俺とチハヤ。二人しかいない」
チハヤは耳を赤くして恥ずかしそうに顔を伏せると、俺の指の間に自分の指を滑り込ませ、手を絡める。相変わらずチハヤの手は冷たいが、どこか温かい。
「…ずるいよ」
赤みを帯びた顔で眉間に皺を寄せ恥ずかしそうに、むすっとし、下唇を噛む。俺はそんなチハヤをうっとりとした目で見つめていた。
「セイヤは急にいなくなるから、不安だよ。いつか本当にいなくなっちゃいそう」
チハヤの手にぎゅっと力が入る。先ほどとは打って変わり表情が深く沈んだ。
空いた手をチハヤの腰に回し強引に引き寄せる。目を瞑り軽く唇を押し当てるとチハヤの体がびくっと跳ねた。瞑っていた目を開け、唇を離した。
「俺はいなくなったりしない。ずっと、チハヤと一緒にいる」
チハヤは目を丸くして瞬く間に火が出るほど頬を赤く輝かせる。腰に回した腕にまでチハヤの激しいどくどくと鼓動が伝わる。
「…う、な、なんでそんな余裕そうなの」
チハヤは狼狽え、絡めた手を引こうとした。俺はチハヤの手首を掴む。
「離れるな」  
チハヤの手首を掴んだまま自分の胸に押し当てる。
「余裕なんて、はなからない」
心臓の脈打つ音が腕を伝いチハヤに届く。
熱っぽい空気が2人の間に充満する。
「ずっと、一緒にいてくれるの?」
チハヤは不安そうな声でおそるおそる尋ねる。
「当たり前だろ。1000年先も、一緒にいる。一緒にいてくれ」
「約束ね」
そう言って互いに小指を絡め、1000年後にも同じ星を同じ人と見れることを願った。
満点の星空は変わることなく2人を心地よい光で照らしていた。星々の下、もう1度唇を合わせた。

──1000年先も一緒にいたい

2/4/2024, 2:16:56 AM