かたいなか

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前回投稿分のおはなしで、狂犬病予防法第5条に先駆けて、狂犬病予防接種を頑張った子狐です。
最近最近の都内某所、某本物の稲荷狐が住まう稲荷神社在住の末っ子子狐は、
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
注射を我慢するのもひとつの修行です。

「ちゅーしゃ!りふじん!リフジン!」
ですが子狐、なぜ毎年注射をするのか、誰のために毎年痛い思いをしなければならないのか、
ちっとも、少しも、理解していません。
「フジョーリだ!フジョーリだ!」
取り敢えず今年の分の注射を耐え抜きましたので、
ご褒美のお肉、油揚げ、豆腐、お餅等々、
存分に、十分に、堪能したのでした。

「フジョーリ!」
ちゃむちゃむ、ちゃむちゃむ。
コンコン子狐、大好きな特撮風アニメの次回予告に出てきた言葉「不条理」を叫びながら、
でもご褒美はとっても美味しいので、尻尾ぶんぶん、大満足。おかわりも抜かりありません。

そんな子狐の隣で虚ろ目して、子狐と上司による不条理と対峙してる野郎がひとり居りまして。
「そうだね 不条理だね……」
というのもこの野郎、ビジネスネームをツバメといいまして、
本当であれば今頃、予約しておいた喫茶店で、
予約しておいた最高級コーヒーを目の前で焙煎してもらって、挽いてもらって、淹れてもらって、
そして、フルーティーな香りと焙煎の苦味とを存分に楽しんでいる予定だったのです。

それが突然、敬愛する上司から子狐の見守りと食べ物の支払いを任せられまして。

「仕方無い。しかたないんだ」
ああ、ああ。私のコーヒー。
上司の指示の理由も、子狐の見守りに自分を指名した理由も理解しているツバメです。
喫茶店の店主をしている魔女のおばあちゃんからも、予約の件はキャンセル料と、それから24時間以内の入店とで、
ギリギリ、許してもらえそうなのです。

とはいえ本来ならコーヒーなのです(お題回収)

「フジョーリ!フジョーリ!」
「そうだね。不条理だ」
「オジサンも、フジョーリ」
「オジサンの年齢じゃないけど私も不条理だ」

「オジサン、おにく、たべる。
キツネのおにく、あげる。オジサンおたべ」
「うん。子狐、きみが食べて良いんだよ」

良い子良い子。
ツバメが子狐の頭を撫でてやると、子狐はそれが嬉しくて嬉しくて、
尻尾ぶんぶんぶん、お耳ペッタン、目が幸福です。
注射の不機嫌はもう吹っ飛んだようです。
ツバメも子狐の幸福を見て、ニッコリ。

とはいえ本来ならコーヒーです(略)

「フジョーリ!」
「そうだ。不条理だ」
「ちゅーしゃ、ハンタイ!」
「注射は来年も、頑張りましょうね」

「オジサンおにく。」
「私にお肉を渡しても来年の注射は消えないよ」
「おにく」

ちゃむちゃむ、ちゃむちゃむ!
コンコン子狐は幸福に、狂犬病予防接種を耐えたご褒美を堪能し続けます。
ツバメは相変わらず虚ろ目。
時折オジサンと呼ばれては、たまに「オジサン」を訂正して、子狐を撫でてやるのでした。

最終的にツバメは予約の時刻から、だいたい18時間ほど遅れて、
ようやく、念願のコーヒーに辿り着きましたとさ。

3/19/2026, 6:37:38 AM