イオリ

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不完全な僕

カレーライスを作っていると……。

またカレーかよ、と弟と妹が口を尖らす。

わかった、わかった。きょうのはひと味違うから少し待ってな、 と、とりあえずなだめた。

さてどうしようか。キッチンを見回す。

確かこれいけたよな、と何処かで聞いた記憶を頼りに、チョコレートを鍋に入れた。


いただきます。 ふたりが一口。

どうだ。

おお、うまい。いつもよりちょっとだけ。なっ。

うん。ちょっとだけ美味しい。

そうかそうか。 ちょっとだけらしいが、それでも良かった。また一歩、完璧なカレーに近づけたようだ。フフッ。

ただいま。 姉が帰ってきた。

なに、カレー?

ああ、食べる?

うん。 勢いよく一口。すると、

なに、これ。甘すぎない?

あ、うん。隠し味にチョコレートを。

だめ。何やってんの。あんた、子どもじゃないんだから。 そう言って姉は冷蔵庫からワインを取り出し、ドバドバっと鍋に入れた。

しばらく煮込んで、

うん、美味しい。やっぱりカレーにはワインだな。

そ、そうか。 まあ、これはこれで完璧カレーに近づけたか。

ただいま。 母が帰宅した。

お腹すいた。あら、カレー?わたしにも頂戴。

僕は皿によそって母に運んだ。一口食べて、

なにこれ、クドい。何入れたの?

えっと、チョコレートとワインを……。

だからこんなにクドいのね。 そう言って母は冷蔵庫からレモン汁を出し、鍋にドバドバっと入れた。

うん、さっぱり。これでいい。と、母。

兄妹たちで新生、完璧カレーを食べる。

おお、美味しい、と一同。




まあ、美味しいのができたから、それはそれでよかったけど……。

こっちがいいと言われればこっちが良く思え、そっちがいいと言われればそっちがよく思えて……。

こんな不完全な僕に、本物の完璧カレーを作る日は訪れるのだろうか。



8/31/2024, 12:45:44 PM