白玖

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[善悪]

「俺がもし悪い男だったらどうする? 俺はお前が思ってるような男じゃないかもしれないよ」
壁際まで彼女を追い詰める。簡単に触れ合える距離で俯いているのはたった今、愛の告白をしてきた俺の可愛い可愛い後輩。残業後、珍しく一緒に帰ろうと誘ってきたかと思えば終始黙りこくって、ようやく口を開けば俺を好きだと言ってきた。別にこいつに対して恋愛感情なんてないが、薄暗い街頭に照らされた路上で顔を赤らめてる後輩をほんの少しだけ誂ってみたくなった。
「仕事が出来て、優しくて? 厳しい部分はあるけど認めてあげるところはちゃんと認めてあげる。お前に見せてる顔は全部偽物で、仕事中の俺しか知らないのにお前は俺の何を好きだって言えたの?」
「わ、わたし、は……」
普段は人を寄り付けないクールな態度を気取ってるくせに捲し立てられると途端に何も言えなくなって悔しげに涙を堪えるのも知ってる。だって、お前は俺の可愛い後輩だから。髪で隠れて見えないけど、今だってそう。
「っ!!」
顎を掴み強制的に顔を上げさせる。別に痛みつける趣味はないけれど出来るだけ今の『台詞』に相応しいよう少し強めに。
「この状況でもさっきと同じこと、言える?」
言えないならそれでいい、冗談だったと誤魔化して全部無かったことに出来る。ほら、お前には言えな――
「わ、私、は…ど、んな先輩でも、好きって、言えます」

自然と指から力が抜ける。
「―――、俺は、お前にとって善い男じゃないよ」

「良くても悪くても、私が好きになったのは、先輩ですから」
「…………ばーか。冗談言ってないでさっさと帰るぞ」
額を軽く小突いて冗談めかして笑う。最初からこの告白を真剣に受け取るつもりはなかった。けど――

(……やられた)

4/26/2023, 11:16:11 AM